【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「翠様、お水を」
動けないカヤを尻目に、タケルが水を差しだしてきた。
「ああ……ありがとう」
礼を言いつつ翠がゆっくりと身体を起こす。
膝の上の重みが無くなり、カヤは自分の足が遠い昔に感覚を無くしていた事に気が付いた。
水を飲んで、ふう、と一息付いた翠に、タケルが声を掛ける。
「お加減はどうですか?」
「大分良くはなったな……が、まだ本調子ではない」
「そりゃあ、あのように激高されては毒の回りも良くなります。肝が潰れるかと思いましたぞ」
え、とカヤは何か引っかかるものを感じたが黙っていた。
むっつりと言ったタケルに、翠が苦笑いを漏らす。
「弥依彦の愚かさに思わずな……心配をかけてすまなかった」
「いいえ。まあそもそも、チカータの量が足りておりませんでしたからな」
「そうだな」と翠は頷き、ふと思い出したようにタケルに尋ねた。
「そういえば、弥依彦の様子はどうであった?」
「我々が国を出る直前まで苦しんではおりましたな。まあ、今頃は徐々に回復に向かっている事でしょう」
「そうか。思ったよりも苦しんでいたな。恰幅が良いから毒もそこまで効かないと思ったが……」
「単に、貴方様と同じで興奮なさったためでは?」
そう言って、タケルが何か言いたげな視線をカヤに送ってきた。
それに続き、翠もまたこちらを見やって来る。
「娘、なぜあのような場所におったのだ?」
タケルが不審げにそう問うた。
カヤはと言うと、返事をしなかった。
正確に言うと、間抜け面のまま呆けていた。
いつからと言われると、目の前で2人が会話を始めた直後あたりからだ。
「……あの……毒、とは?」
一度目は聞き流そうと思ったのだ。
いやいや、自分の聞き間違いだろうと。
しかし二度目に聞こえてきたその単語を、さすがにカヤは無視できなかった。
翠とタケルが意味ありげに視線を合わせた。
兄弟間で何やら無言の会話を交わしているようだ。
やがて2人が互いに頷き合い、無言の会話が終わったらしい翠がカヤに向き直った。
「今から話す事は他言無用だ」
ぴりり、とした真面目な声に、カヤは自然と背筋を伸ばす。
「まず、魂を繋げる酒なんてものは存在しない。よって魂の繋がりを解く巫術なども無い。弥依彦と私の症状は、ただの毒によるものだ」
翠の言葉が右から左へ流れ、そしてもう一度左から入ってきてようやく意味を成した時、カヤの口はぽっかりと開いた。
「…………え?」
色々と理解出来ないカヤに、翠は懇切丁寧に説明をしてくれた。
動けないカヤを尻目に、タケルが水を差しだしてきた。
「ああ……ありがとう」
礼を言いつつ翠がゆっくりと身体を起こす。
膝の上の重みが無くなり、カヤは自分の足が遠い昔に感覚を無くしていた事に気が付いた。
水を飲んで、ふう、と一息付いた翠に、タケルが声を掛ける。
「お加減はどうですか?」
「大分良くはなったな……が、まだ本調子ではない」
「そりゃあ、あのように激高されては毒の回りも良くなります。肝が潰れるかと思いましたぞ」
え、とカヤは何か引っかかるものを感じたが黙っていた。
むっつりと言ったタケルに、翠が苦笑いを漏らす。
「弥依彦の愚かさに思わずな……心配をかけてすまなかった」
「いいえ。まあそもそも、チカータの量が足りておりませんでしたからな」
「そうだな」と翠は頷き、ふと思い出したようにタケルに尋ねた。
「そういえば、弥依彦の様子はどうであった?」
「我々が国を出る直前まで苦しんではおりましたな。まあ、今頃は徐々に回復に向かっている事でしょう」
「そうか。思ったよりも苦しんでいたな。恰幅が良いから毒もそこまで効かないと思ったが……」
「単に、貴方様と同じで興奮なさったためでは?」
そう言って、タケルが何か言いたげな視線をカヤに送ってきた。
それに続き、翠もまたこちらを見やって来る。
「娘、なぜあのような場所におったのだ?」
タケルが不審げにそう問うた。
カヤはと言うと、返事をしなかった。
正確に言うと、間抜け面のまま呆けていた。
いつからと言われると、目の前で2人が会話を始めた直後あたりからだ。
「……あの……毒、とは?」
一度目は聞き流そうと思ったのだ。
いやいや、自分の聞き間違いだろうと。
しかし二度目に聞こえてきたその単語を、さすがにカヤは無視できなかった。
翠とタケルが意味ありげに視線を合わせた。
兄弟間で何やら無言の会話を交わしているようだ。
やがて2人が互いに頷き合い、無言の会話が終わったらしい翠がカヤに向き直った。
「今から話す事は他言無用だ」
ぴりり、とした真面目な声に、カヤは自然と背筋を伸ばす。
「まず、魂を繋げる酒なんてものは存在しない。よって魂の繋がりを解く巫術なども無い。弥依彦と私の症状は、ただの毒によるものだ」
翠の言葉が右から左へ流れ、そしてもう一度左から入ってきてようやく意味を成した時、カヤの口はぽっかりと開いた。
「…………え?」
色々と理解出来ないカヤに、翠は懇切丁寧に説明をしてくれた。