【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「――――……翠様!翠様!?ああ、いらっしゃった!」
騒がしい声と大きな足音が近づいてきて、タケルが部屋に飛び込んできた。
「頼みますから、大人しくしていて下さい!体調が悪化しますぞ……って、カヤでは無いか!」
ようやく翠以外の存在に気が付いたタケルが仰天したように飛び上がり、そしてカヤの目の前で剣を構えている膳に、更に驚愕した顔を見せた。
「ぜ、膳っ!今すぐにカヤから離れろ!」
通常よりも二倍の太さはありそうな剣を構え、タケルが鋭く言い放った。
その間にもタケルに続いて続々と屋敷の兵達が部屋に入って来る。
膳はあっという間に包囲された。
剣を構えた兵達が、じりじりと距離を詰め、包囲網を狭めていく。
「動くな!」
「きゃっ……」
叫んだ膳が、唐突にカヤを羽交い絞めにした。
ひやり、と冷たい刀身がカヤの首に当てられる。
「……これ以上近寄れば……分かるな」
耳元で、はあはあと膳の荒い息遣いが聞こえた。
つ、と剣が横に引かれ、首にピリッとした痛みが走る。
「やめろ!」
タケルの焦った様な声に、自分の皮膚が斬られた事を理解した。
(い、た……い)
ガクガクと身体中が震えて、止まらない。
今すぐにでも逃げ出したいのに、少しでも動けば刃が突き刺さってしまうのではという恐怖に襲われ、カヤはぴくりとも動けなかった。
追い詰められた膳と、そして殺されかけているカヤを目の当たりにし、手を出せない兵達。
誰もが身動き出来ない膠着状態の中、只一人動いたのは、その人だった。
――――翠が、手にしていた剣を静かに鞘に収めた。
チィン、と小気味の良い音を立て、丸腰になった翠は、恐ろしい事にこちらに向かって歩を進めて来た。
「すっ……い……」
カヤの心臓がひっくり返った。
「だ、め……!こない……で……!」
己の喉を切り裂かんとしている刃の存在すら忘れ、カヤは必死に言葉を発した。
一体何を考えていると言うんだ。
お願いだ、来ないでくれ、危ない、死んでしまう!
「翠……さ、ま……」
まさかそんなにも無防備な状態で翠が向かってくるなど、膳は予想もしていなかったらしい。
思わぬ行為に慄いたのか、膳がじりじりと後ずさる。
カヤもそれに引っ張られ、よろめくようにして後ろに後退させられた。
翠は言葉を紡がない。
何の感情も映さない黒い双眸で、ただただ膳とカヤを見据えながら近づいてくる。
――――否、ともすればそれは、燃え盛る情火を無理やりに抑えつけているだけのようにも見えた。
翠の美しい指が、ふわりと持ち上がる。
賛美のようなそれは、迷いなくカヤの喉元に向かってきて、そして――――
「っ、翠様!」
タケルが叫んだと同時、翠の白い腕に鮮やかな赤が、つ、と線を描いた。
「ひっ……」
カヤの喉から潰れた悲鳴が漏れ出る。
翠の指は、膳の刀身を鷲掴みにしていた。
騒がしい声と大きな足音が近づいてきて、タケルが部屋に飛び込んできた。
「頼みますから、大人しくしていて下さい!体調が悪化しますぞ……って、カヤでは無いか!」
ようやく翠以外の存在に気が付いたタケルが仰天したように飛び上がり、そしてカヤの目の前で剣を構えている膳に、更に驚愕した顔を見せた。
「ぜ、膳っ!今すぐにカヤから離れろ!」
通常よりも二倍の太さはありそうな剣を構え、タケルが鋭く言い放った。
その間にもタケルに続いて続々と屋敷の兵達が部屋に入って来る。
膳はあっという間に包囲された。
剣を構えた兵達が、じりじりと距離を詰め、包囲網を狭めていく。
「動くな!」
「きゃっ……」
叫んだ膳が、唐突にカヤを羽交い絞めにした。
ひやり、と冷たい刀身がカヤの首に当てられる。
「……これ以上近寄れば……分かるな」
耳元で、はあはあと膳の荒い息遣いが聞こえた。
つ、と剣が横に引かれ、首にピリッとした痛みが走る。
「やめろ!」
タケルの焦った様な声に、自分の皮膚が斬られた事を理解した。
(い、た……い)
ガクガクと身体中が震えて、止まらない。
今すぐにでも逃げ出したいのに、少しでも動けば刃が突き刺さってしまうのではという恐怖に襲われ、カヤはぴくりとも動けなかった。
追い詰められた膳と、そして殺されかけているカヤを目の当たりにし、手を出せない兵達。
誰もが身動き出来ない膠着状態の中、只一人動いたのは、その人だった。
――――翠が、手にしていた剣を静かに鞘に収めた。
チィン、と小気味の良い音を立て、丸腰になった翠は、恐ろしい事にこちらに向かって歩を進めて来た。
「すっ……い……」
カヤの心臓がひっくり返った。
「だ、め……!こない……で……!」
己の喉を切り裂かんとしている刃の存在すら忘れ、カヤは必死に言葉を発した。
一体何を考えていると言うんだ。
お願いだ、来ないでくれ、危ない、死んでしまう!
「翠……さ、ま……」
まさかそんなにも無防備な状態で翠が向かってくるなど、膳は予想もしていなかったらしい。
思わぬ行為に慄いたのか、膳がじりじりと後ずさる。
カヤもそれに引っ張られ、よろめくようにして後ろに後退させられた。
翠は言葉を紡がない。
何の感情も映さない黒い双眸で、ただただ膳とカヤを見据えながら近づいてくる。
――――否、ともすればそれは、燃え盛る情火を無理やりに抑えつけているだけのようにも見えた。
翠の美しい指が、ふわりと持ち上がる。
賛美のようなそれは、迷いなくカヤの喉元に向かってきて、そして――――
「っ、翠様!」
タケルが叫んだと同時、翠の白い腕に鮮やかな赤が、つ、と線を描いた。
「ひっ……」
カヤの喉から潰れた悲鳴が漏れ出る。
翠の指は、膳の刀身を鷲掴みにしていた。