【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「……私が、この国を亡ぼすっていうの……?そんな事、するわけが無い……」
「お前が望もうが望むまいが関係ない。この世には、そういう人間が居るものだ」
必死の否定を、膳はばっさりと切り捨てた。
カヤは言葉を失った。
膳に言われた事に対して、頭を殴られたような衝撃を受けた。
(だって、確かに知っている)
何度も何度もこの身で体験したのだ。
どれだけ泣こうが叫ぼうが、大切なものをこの手から奪い去っていく世界がある。
あまりにも理不尽に。
あまりにも無慈悲に。
例えカヤが、そこで息をしているだけであっても。
「憐れな娘だ。どこに行っても、どう足掻いても、お前は人を不幸にするだろう。翠様も、必ず」
そう言って膳が髪の欠片を投げ捨てる。
はらり。はらり。
宙を舞いながら落ちていく、金の髪。
成すすべも無く、真っ逆さまに、例え落下を拒んでも、それは叶わない。
なぜならそれが、世界の理なのだ。
「お前はこの国をいつか壊す。私は守らねばなるまい。家族と、ここまで仕えてくれた臣下と、そして……翠様を。だから私は、お前を葬る」
それが私の意志だ、とそう言い切り、切っ先がカヤを向く。
鋭いそれが鈍く光を放った。
(嗚呼、なるほど、そうだったのか)
唐突に理解した気がした。
カヤがここで呼吸をし、心臓を動かしているのと同じくらい自然な事。
悟ったカヤの口から、諦めの嘲笑いが漏れた。
ゆるりと潔く瞼を閉じる。
眼尻から、抗いようの無い涙が落ちていったのを感じた。
「―――――膳様!膳様っ……!」
ドタドタドタ!と激しい足音が近づいてきた。
カヤはハッとして眼を開く。
部屋の入口から、息を切らせた男が現れた。
「何事だ!」
「へ、兵がっ……屋敷の兵が来ました!今、外で討ち合っております!」
その言葉に、膳が衝撃を受けたように表情を強張らせた。
カヤは咄嗟に耳を澄ませた。
何やら外が騒がしい事に、ようやく気が付いた。
怒声、足音、そして刃と刃が交わる固い音が聞こえてくる。
「なんだと!?何故ここが分かった!?」
「分かりません!とにかく早くお逃げください!すぐにでも奴らが来ま―――――」
ぴたり、と唐突に男の言葉が止まった。
焦ったような表情そのままに、ゆらりとその身体が揺れる。
そして、どさりと勢いよく床に打ち付けられた。
じわじわと瞬く間に血液が床に広がっていく。
ビシャッ、と湿った音がした。
その血溜まりを躊躇なく踏み越え、部屋に入ってきた人物に、カヤの息が止まった。
「す、翠……様……」
膳が呆然と呟く。
翠は返り血で衣を鮮やかに染め、そしてその秀麗な顔はぞっとするほど無表情だった。
剣を振って血液を飛ばした翠が、ゆるりとこちらを向く。
その瞳がカヤを捉えた瞬間、ほんの僅かにだけ見開かれた。
翠の唇が、小さく動く。
音を伴わないそれは、残念ながら聞こえなかった。
ただ、馬鹿げた勘違いかもしれないが、まるでカヤの名を呟いたように見えてしまった。
「お前が望もうが望むまいが関係ない。この世には、そういう人間が居るものだ」
必死の否定を、膳はばっさりと切り捨てた。
カヤは言葉を失った。
膳に言われた事に対して、頭を殴られたような衝撃を受けた。
(だって、確かに知っている)
何度も何度もこの身で体験したのだ。
どれだけ泣こうが叫ぼうが、大切なものをこの手から奪い去っていく世界がある。
あまりにも理不尽に。
あまりにも無慈悲に。
例えカヤが、そこで息をしているだけであっても。
「憐れな娘だ。どこに行っても、どう足掻いても、お前は人を不幸にするだろう。翠様も、必ず」
そう言って膳が髪の欠片を投げ捨てる。
はらり。はらり。
宙を舞いながら落ちていく、金の髪。
成すすべも無く、真っ逆さまに、例え落下を拒んでも、それは叶わない。
なぜならそれが、世界の理なのだ。
「お前はこの国をいつか壊す。私は守らねばなるまい。家族と、ここまで仕えてくれた臣下と、そして……翠様を。だから私は、お前を葬る」
それが私の意志だ、とそう言い切り、切っ先がカヤを向く。
鋭いそれが鈍く光を放った。
(嗚呼、なるほど、そうだったのか)
唐突に理解した気がした。
カヤがここで呼吸をし、心臓を動かしているのと同じくらい自然な事。
悟ったカヤの口から、諦めの嘲笑いが漏れた。
ゆるりと潔く瞼を閉じる。
眼尻から、抗いようの無い涙が落ちていったのを感じた。
「―――――膳様!膳様っ……!」
ドタドタドタ!と激しい足音が近づいてきた。
カヤはハッとして眼を開く。
部屋の入口から、息を切らせた男が現れた。
「何事だ!」
「へ、兵がっ……屋敷の兵が来ました!今、外で討ち合っております!」
その言葉に、膳が衝撃を受けたように表情を強張らせた。
カヤは咄嗟に耳を澄ませた。
何やら外が騒がしい事に、ようやく気が付いた。
怒声、足音、そして刃と刃が交わる固い音が聞こえてくる。
「なんだと!?何故ここが分かった!?」
「分かりません!とにかく早くお逃げください!すぐにでも奴らが来ま―――――」
ぴたり、と唐突に男の言葉が止まった。
焦ったような表情そのままに、ゆらりとその身体が揺れる。
そして、どさりと勢いよく床に打ち付けられた。
じわじわと瞬く間に血液が床に広がっていく。
ビシャッ、と湿った音がした。
その血溜まりを躊躇なく踏み越え、部屋に入ってきた人物に、カヤの息が止まった。
「す、翠……様……」
膳が呆然と呟く。
翠は返り血で衣を鮮やかに染め、そしてその秀麗な顔はぞっとするほど無表情だった。
剣を振って血液を飛ばした翠が、ゆるりとこちらを向く。
その瞳がカヤを捉えた瞬間、ほんの僅かにだけ見開かれた。
翠の唇が、小さく動く。
音を伴わないそれは、残念ながら聞こえなかった。
ただ、馬鹿げた勘違いかもしれないが、まるでカヤの名を呟いたように見えてしまった。