【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

孤高の人は窺い知れない

四方八方が闇の中、浮かぶのは小さな金色。
それを与えてもらった時、きっと私は一度救われた。

慈しむように髪を梳いて、笑みを湛えて。
何もかも許容して、異質だと思わなくて良いとさえ誤解させて。

――――そして、嗤えるくらい無情に砕け散る。

嗚呼、そういえば私、金を侵す赤に恐怖を抱いた事もあったんだった。





「……う、…眩し……」

白い光が、眼を容赦なく刺す。

痛い。眩しいと言うか、痛い。

そう認識した途端、音が遮断されていた世界に、ざわざわと多くの人が行きかう足音や声が届いてきた。


あれ?なんでこんなに煩いのだろう?
いつも物音一つしないってのに。

まるで、たくさんの人が住む村のど真ん中にでも居るような、そんな感じ―――


「……はッ!」

ガバッ!と勢い良く起き上がる。
一気に眼を覚ましたカヤは、慌てて家の窓に駆け寄って外を見やった。

目の前の道を行きかう人々。
所狭しと建てられた家々。

そして大分高い位置まで上がった太陽を眼にし、カヤはゆっくり窓から離れた。

「そうか……そうだった」

未だ、慣れない。
そう言えば、自分はこの見知らぬ国に居たのだった。


二日続けて昼まで眠ってしまった事に自己嫌悪しながら、カヤは井戸まで水を汲み、のそのそと顔を洗った。

昨夜、ナツナから貰った握り飯を見事に完食し、気持ちの良い満腹感を抱えたまま眠ったからだろう。

昨日目が覚めた時よりも、ずっと身体の調子が良かった。


身支度を整え、大きく伸びをしたカヤは家の中を見回した。

床を掃き終わったとは言え、未だ人が住んでいるとは言えない荒れ方だ。

複雑ではあるが、この家にはしばらくお世話になる予定だ。
もう少し住み心地を良くしたいところではある。

そう思ったカヤは、ひとまずあの朽ちかけの箒を手に取った。

しかし、そこからどう手を付ければ良いのか良く分からない。
カヤは、あまり掃除というものをしたことが無かった。


「カーヤちゃん」

立ち尽くしていると、そんな声が入口側から聞こえた。
ナツナがひょっこりと入口から顔を出していた。

どきん、と心臓が小さく跳ねる。

「あ……お、おはよう」

どもりながらも、そう挨拶する。

言った後に、しまったと思った。
"おはよう"と言うには遅すぎるはずだ。

「おはようございます」

しかし、ナツナはニッコリと笑いを返してくれた。
それから彼女は間髪入れずに言葉を紡いだ。

「あの、もしかしてお掃除されるのですか?」

ナツナの視線は、カヤの手の中の箒を向いている。

「あ、うん」

「確かに、なかなか味わい深いお家ですものねえ」

ナツナが家の中を見回しながら、控えめに言った。
コウと言い、ナツナと言い、上手い物言いをするものだ。

カヤが感心していると、

「宜しければ、お手伝いさせてくださいませんか?」

ナツナが、ちょこんと首を傾げながら言った。

戸惑いの無いその言葉に、きっとそれが目的で訪ねてきてくれたのだと悟る。

初めて会った時に思い切り突き返してしまった優しさを再度提案してきてくれた事に、カヤは非常に驚いた。

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