【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「す、すいません……どうにも下手くそで……」
縮こまりながら謝ると、翠は「いや、違う」と首を横に振った。
「思っていたよりも、ずっと良い太刀筋だ」
微笑みながら言われ、お世辞だろうが胸を撫で下ろす。
「よし、そのまま続けて向かってきてくれ!」
「はい!」
鋭い翠の声に呼応するように、カヤも再び木刀を握り直し、地を蹴った。
「――――止めだ!」
翠が言い放ったのは、討ち合いを初めてしばし経った頃だった。
それを合図に、カヤは足を止めて構えを下ろす。
「相手をしてくれてありがとう」
「こ、こちらがありがとうございました……」
ぜえぜえと息を吐きながら深く頭を下げ、カヤはその場にしゃがみ込んでしまった。
久しぶりに動いたせいで疲労しているカヤとは裏腹に、翠はほとんど息を乱していなかった。
とてもじゃないが手合わせとは言い難い手合わせだった。
始まる前から分かってはいたが、これっぽっちも歯が立たなかったのだ。
すばしっこい彼に翻弄されて、ただただあっちこっち駆けずり回っていただけのような気がする。
疲労困憊して動けないでいるカヤに、なんと翠が水を持ってきてくれた。
有り難く喉を潤していると、不意に翠が尋ねてきた。
「カヤは、どれほどの頻度で稽古をしていた?」
「頻度……?一応毎日です……」
「一日の中でどれくらいだ?」
「朝と昼と晩……馬達のお世話をする以外の時間は、ほとんど……」
その頻度でその腕か、と思われているのだろうか。
不安になり消え入りそうな声で答えると、翠は「成程な」と頷いた。
「どうだ、タケル?」
そして少し離れた所で討ち合いを見ていたタケルに、そう声を掛けた。
「思っていたよりも……ですな。基礎がしっかりと出来ております」
「ああ。さすがミナトだ。優秀な者は教えるのも上手いらしい」
「私は賛成ですな」
「同感だ」
何やら二人の間で会話を完結付けると、翠は再びカヤに向き直った。
話の流れに付いていけず呆けていたカヤは、慌てて背筋を伸ばす。
「実はミナトから、カヤに剣の稽古を続けさせてやって欲しいと頼まれたのだよ」
「えっ」と驚くカヤに、翠は続ける。
「だが上達の見込みが無いならば、稽古を続ける意味はない。そこで、カヤの力量をタケルと見定めさせて貰った」
「あ、だから手合わせを……」
納得したと同時に、不意に数日前にミナトと交わした会話を思い出す。
"翠様に言ってみれば?取り計らって下さるだろ"
そう言ったミナトの言葉を「申し訳無いから」と、カヤは拒否した。
そんな自分の代わりに、ミナトが口利きをしてくれたと言うのか。
一気にミナトへの感謝の気持ちが溢れてくるのが分かった。
縮こまりながら謝ると、翠は「いや、違う」と首を横に振った。
「思っていたよりも、ずっと良い太刀筋だ」
微笑みながら言われ、お世辞だろうが胸を撫で下ろす。
「よし、そのまま続けて向かってきてくれ!」
「はい!」
鋭い翠の声に呼応するように、カヤも再び木刀を握り直し、地を蹴った。
「――――止めだ!」
翠が言い放ったのは、討ち合いを初めてしばし経った頃だった。
それを合図に、カヤは足を止めて構えを下ろす。
「相手をしてくれてありがとう」
「こ、こちらがありがとうございました……」
ぜえぜえと息を吐きながら深く頭を下げ、カヤはその場にしゃがみ込んでしまった。
久しぶりに動いたせいで疲労しているカヤとは裏腹に、翠はほとんど息を乱していなかった。
とてもじゃないが手合わせとは言い難い手合わせだった。
始まる前から分かってはいたが、これっぽっちも歯が立たなかったのだ。
すばしっこい彼に翻弄されて、ただただあっちこっち駆けずり回っていただけのような気がする。
疲労困憊して動けないでいるカヤに、なんと翠が水を持ってきてくれた。
有り難く喉を潤していると、不意に翠が尋ねてきた。
「カヤは、どれほどの頻度で稽古をしていた?」
「頻度……?一応毎日です……」
「一日の中でどれくらいだ?」
「朝と昼と晩……馬達のお世話をする以外の時間は、ほとんど……」
その頻度でその腕か、と思われているのだろうか。
不安になり消え入りそうな声で答えると、翠は「成程な」と頷いた。
「どうだ、タケル?」
そして少し離れた所で討ち合いを見ていたタケルに、そう声を掛けた。
「思っていたよりも……ですな。基礎がしっかりと出来ております」
「ああ。さすがミナトだ。優秀な者は教えるのも上手いらしい」
「私は賛成ですな」
「同感だ」
何やら二人の間で会話を完結付けると、翠は再びカヤに向き直った。
話の流れに付いていけず呆けていたカヤは、慌てて背筋を伸ばす。
「実はミナトから、カヤに剣の稽古を続けさせてやって欲しいと頼まれたのだよ」
「えっ」と驚くカヤに、翠は続ける。
「だが上達の見込みが無いならば、稽古を続ける意味はない。そこで、カヤの力量をタケルと見定めさせて貰った」
「あ、だから手合わせを……」
納得したと同時に、不意に数日前にミナトと交わした会話を思い出す。
"翠様に言ってみれば?取り計らって下さるだろ"
そう言ったミナトの言葉を「申し訳無いから」と、カヤは拒否した。
そんな自分の代わりに、ミナトが口利きをしてくれたと言うのか。
一気にミナトへの感謝の気持ちが溢れてくるのが分かった。