【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
(……全部言ってほしいのに)
そうして肩に圧し掛かっているものを、半分こしたいのに。
心の中で溜息を付いたカヤだったが、しかし次の瞬間には気持ちを切り替え、顔に笑顔を張り付けた。
翠は間違いなく自分の意志でカヤを傍に置いてくれている。
それだけで十分じゃないか。我儘は無しだ。よし、忘れよう。
「そういえばさ、そろそろ秋の祭事だね」
微妙に声が上ずったが、慌てて「楽しみだね!」と言葉を付け足して誤魔化す。
翠は、流れるような自然さで笑顔を返してきた。
「ああ、そうだな」
「また春の時みたいに二人で踊りたいねえ」
カヤは懐かしさに目を細めた。
翠を脅してコウの姿になってもらって、二人で屋敷の廊下を走り抜けたっけ。
知らないおじさんに手を繋がれて面食らった時の翠の顔は面白かったし、なんだかんだで楽しそうに踊っていた彼を見れて、とても嬉しかった。
「ね、今回も抜け出しちゃう?」
うきうきと浮足立ちながら言ったカヤは、
「……今回は、夜の踊りは無いぞ?」
翠のそんな言葉に大いに衝撃を受けた。
「え!?」
「あれは豊作を祈る意味があるから春だけなんだ。そうか、知らなかったんだな」
憐れみの眼を向けられ、カヤの高揚した気持ちは、しゅるしゅると萎んだ。
「そっかあ……」
「まあ、露店は開かれるから。そっちを楽しむと良いよ」
「そうなの!?良かった!それなら、いっぱい食べなきゃ!」
急速に元気を取り戻したカヤに、翠が「食べ物だけかよ」と笑った。
(またナツナとユタと三人で回りたいなあ)
心を弾ませていたカヤは、ふと考えを中断した。
「あれ?てことは、翠のお祈りも無いの?」
春の時は、お昼に広場で翠の舞があって、夜には同じ広場で踊りがあった。
秋に夜の踊りが無いのなら、翠の舞も無いのではなかろうか。
舞のために着飾った翠が普段以上に綺麗だったから、出来ればもう一度見たかったのだが。
「……一応あるよ」
一瞬の間の後、翠がそう言った。
その返答に喜んだカヤは、気が付けなかった。
「良かった!でも、一応って?」
「あ、いや、ちゃんとあるよ。実りを授けてくれた神に感謝するために、祈りに関しては秋も行うんだ」
僅かに陰った表情に。声色に。
まんまと、それを汲み取る事が出来なかった。
気が付いていれば拭えたろうか。
透明で在り続けていた翠を蝕もうとする、その憂いを。
清廉であれ、と誰よりも祈り続けたのは、カヤだったのに。
「私、最前列で見てるね!頑張ってね」
「……ああ、ありがとう。頑張るよ」
そうやって眉を下げて笑う翠を――――無理矢理に掻き抱いて、何もかもから覆い隠してしまえば良かった。
そうして肩に圧し掛かっているものを、半分こしたいのに。
心の中で溜息を付いたカヤだったが、しかし次の瞬間には気持ちを切り替え、顔に笑顔を張り付けた。
翠は間違いなく自分の意志でカヤを傍に置いてくれている。
それだけで十分じゃないか。我儘は無しだ。よし、忘れよう。
「そういえばさ、そろそろ秋の祭事だね」
微妙に声が上ずったが、慌てて「楽しみだね!」と言葉を付け足して誤魔化す。
翠は、流れるような自然さで笑顔を返してきた。
「ああ、そうだな」
「また春の時みたいに二人で踊りたいねえ」
カヤは懐かしさに目を細めた。
翠を脅してコウの姿になってもらって、二人で屋敷の廊下を走り抜けたっけ。
知らないおじさんに手を繋がれて面食らった時の翠の顔は面白かったし、なんだかんだで楽しそうに踊っていた彼を見れて、とても嬉しかった。
「ね、今回も抜け出しちゃう?」
うきうきと浮足立ちながら言ったカヤは、
「……今回は、夜の踊りは無いぞ?」
翠のそんな言葉に大いに衝撃を受けた。
「え!?」
「あれは豊作を祈る意味があるから春だけなんだ。そうか、知らなかったんだな」
憐れみの眼を向けられ、カヤの高揚した気持ちは、しゅるしゅると萎んだ。
「そっかあ……」
「まあ、露店は開かれるから。そっちを楽しむと良いよ」
「そうなの!?良かった!それなら、いっぱい食べなきゃ!」
急速に元気を取り戻したカヤに、翠が「食べ物だけかよ」と笑った。
(またナツナとユタと三人で回りたいなあ)
心を弾ませていたカヤは、ふと考えを中断した。
「あれ?てことは、翠のお祈りも無いの?」
春の時は、お昼に広場で翠の舞があって、夜には同じ広場で踊りがあった。
秋に夜の踊りが無いのなら、翠の舞も無いのではなかろうか。
舞のために着飾った翠が普段以上に綺麗だったから、出来ればもう一度見たかったのだが。
「……一応あるよ」
一瞬の間の後、翠がそう言った。
その返答に喜んだカヤは、気が付けなかった。
「良かった!でも、一応って?」
「あ、いや、ちゃんとあるよ。実りを授けてくれた神に感謝するために、祈りに関しては秋も行うんだ」
僅かに陰った表情に。声色に。
まんまと、それを汲み取る事が出来なかった。
気が付いていれば拭えたろうか。
透明で在り続けていた翠を蝕もうとする、その憂いを。
清廉であれ、と誰よりも祈り続けたのは、カヤだったのに。
「私、最前列で見てるね!頑張ってね」
「……ああ、ありがとう。頑張るよ」
そうやって眉を下げて笑う翠を――――無理矢理に掻き抱いて、何もかもから覆い隠してしまえば良かった。