【完】絶えうるなら、琥珀の隙間

右に信念、左に現実









カヤは固く閉ざされた戸の前で、一人うろうろとしていた。

翠の衝撃的な告白から一夜明けた。

翠とタケル、そして急遽召集を掛けられた高官達は、つい先ほどこの部屋に入って行った。

カヤは外していなさい―――――とは、部屋に入る直前に翠が言い残して行った言葉だ。

「え、いや、でも」と、狼狽えるカヤの鼻先で、翠はピシャリと戸を閉めてしまった。

お陰でカヤは、部屋の中で行われる話し合いを一言たりとも聞けない状況に居た。


(……気になる)

力が無くなった事を告げれば、高官達がどのような反応をするのか。

翠は糾弾されるに違いない。

タケルが一緒とは言え、それでもカヤは心配で心配で堪らなかった。



「何してんだ?」

「ひいっ!」

唐突に後ろから声を掛けられ、カヤは飛び上がった。
慌てて振り返ると、そこにはミナトの姿が。

「な、な、何してるのっ……?」

身体と共に飛び上がった心臓を撫で下ろしていると、ミナトは「こっちの科白だ」と呆れた表情を浮かべた。

「高官様達と翠様達が審議中なんだろ?盗み聞きでもしようとしてたのか?」

ピタリと閉じている戸を見やりながら、ミナトが冗談めいたように言った。

――――盗み聞き。
そうか、その手があった。


「ねえ、ミナト!何処か中の様子をこっそり見れそうな場所知らない!?」

詰め寄ったカヤが、あまりにも必死な形相だったからだろうか。

ミナトが頬を引き攣らせて後退りした。

「……おい、マジで盗み聞きする気だったのかよ」

「そうなの、ねえお願い!知ってたら教えて!」

ミナトの肩を思い切り揺さぶれば、彼は「分かった分かった!」とカヤを制止した。

「こっちだ。ったく、翠様に怒られても知らねえぞ」

ぶつくさ言いながら走り出したミナトの背中を慌てて追う。

「……何も知らないより良い」

そう呟いたカヤに、ミナトは不思議そうな表情を浮かべた。








「本日は急遽ご足労頂いてすまなかった」

畏まった翠の声が耳に届いた。

部屋の中では、ズラリと並ぶ高官の爺達と向き合うようにして、翠が立っている。


カヤとミナトは、審議が行われている部屋の窓のすぐ外に身を隠していた。

さすがはミナトだ。

中の様子がこっそり伺え、かつカヤ達の姿が見えにくい絶好の場所に連れてきてくれた。



「高官様が勢ぞろいしてるな。珍しい」

隣のミナトが、ぼそりと呟いた。

確かに、こんなにも高官達が勢ぞろいしているのを見たのは初めてだった。

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