【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「――――ん、う……」

散々にいたぶられた後、翠の舌が這い出て行った。

それと同時に、入ってきた時と同じくらいゆっくりと指が去って行く。

カヤは呼吸を乱しながら、手も足も弛緩させた。
全身がぎゅうっと強張っていた事に、その時ようやく気が付いた。


ほっと一息ついたのも束の間、ふと目の前が翳る。

星の灯りを遮断するように、翠が腕を付いてカヤを囲っていた。


「……カヤ。俺の腕、掴んで」

そっと降ってきた声にならって、翠の右腕を両手で握りしめる。

指先は小刻みに震えていた。

不安な思いで視線を上げれば、こちらを見下ろす双眸と眼が合った。

翠も少し緊張していた。すぐにそれが分かった。


「こわいね」

震える唇でそう吐露すれば、翠は頷く。

「うん。怖いな」

「……わたしの心臓、すごくうるさい」

「奇遇だな。俺もだ」

そんな言葉に思わず笑う。

良かった。
二人が怖いなら、何故だか大丈夫だと思えた。

笑みを取り去った後、カヤは息を吐いて、決心したように翠に視線を送った。

翠もまた真剣な表情で同じものを返してくれる。

どちらからともなく、頷き合った後だった。

「ひ、うっ……!」

襲い掛かった激痛に、カヤは今度こそ悲鳴を上げた。

先ほど感じたものなど比では無い。
とてもじゃないが、無視出来ない痛みだった。

思わず身を捩って激痛から遠ざかろうとするが、翠に腰を抑えつけられ、逃げる術を失う。

無常にも切り拓いてくる熱情があまりにも苦しくて、泣き声に塗れた声が漏れ出た。

「い、ったいぃ……」

乾いていたはずの視界が、あっという間に水に濡れて行く。

息が吸えなかった。呼吸をしたくて口を開くけれど、役立たずの唇からは嗚咽が出て行くばかり。

「っごめん、カヤ……ごめん……」

そうやって謝るのに、翠は翠を刻み込んでくるのを止めなかった。

溢れ出る涙を拭ってくれて、憐れむようにカヤの頬を撫でてくれるけれど、決して。

どこまでも深く、残酷なほどにはっきりと、翠によって傷付けられた場所が抉られていく。

仕返しするつもりなんて更々無かったのに、我を忘れて翠の肌に爪を立ててしまった。

翠が短い吐息を漏らす。
それが痛みから成るものなのか、別のものなのか、判断が付かなかった。


「……はっ、」

せり上がっていた痛みが、ふと緩みを帯びた。

じんじんと絶え間ない鈍痛は続いてはいたが、カヤはようやくまともに呼吸をする余裕が出来た。

震える唇で浅く息を吐けば、最奥へと辿り着いた翠が、ひたりと掌で頬を包む。

「痛い、よな……?ごめん」

申し訳なさそうな瞳を見て、本当は翠がカヤに優しくしたがっているのが分かった。

そしてそれを望むのに、今は出来ないのだという事も。

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