【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
見上げた先には漆黒の空と眩いばかりの星、そして静かな眼差しを落とす翠。

「翠……」

不意に泣きそうになった。

そんなに優しく見つめられたら、張り詰めている気が緩んでしまいそうだ。

それが伝わってしまったのか、まるでカヤを安心させるかのような口付けが眼尻に落ちてきた。

未だに震えは止まらなかったものの、それでもカヤが幾ばくかの安堵の表情を見せると、翠の右手は滑るように降りて行った。

するりと太ももを一度だけ撫でて、一度も開かれたことの無い場所に辿り着いて、そして。

「っ、」

ひくり、と身体が跳ねあがった。

優しい指が窺うようにその場所を微触いていく。

その度に身体が呼応して、それが怖くて逃げたくなるのに、妙な煽情がそれを頑なに拒む。


翠は静かに見ていた。

誰にも聞かせた事のないような声で鳴いて、誰にも見せた事のないような表情で溺れるカヤを、ただただ。

「っ、みないでっ……」

恐怖と羞恥に押し潰されそうになり、逃げるように翠の胸に顔を埋めた。

温かな胸に額を擦り付けて、得体の知れない自分を隠すけれど、翠はそれを許してくれない。

「カヤ。ちゃんと俺の方、見て」

熱っぽい声に促されるようにして、どうにか翠を見やる。
視線が合ってしまった瞬間、後悔した。

(ああ、ほどけない)

どうしようも無くはしたないのに、翠が心底愛おしげに目元を緩めるから、それに絡めとられて。

湧きあがる何かに後押しされるように、心臓が愛しさで膨らんでいく。

翠の指に愛でられるたび、翠の眼差しに見つめられるたび、どんどん大きくなって、凶暴になって、抱えきれなくなって。

「――――……っ」

弾けたそれに、ふるり、と身体中が戦慄いた。


反らせて剥き出しになったカヤの首元に、翠がそっと口付ける。

「……嫌じゃない?」

耳元で囁かれた声が、ぼんやりと霞む頭の中に入り込んできた。

肩で緩く息をしながらどうにか頷くと、それまで境界線を割ろうとはしなかった翠の指が、ゆっくりと押し入ってくるのを感じた。

「いっ……」

突如訪れた得も言えぬ痛み。

呻き声を上げかけたカヤの唇を、それを予想していたらしい翠が塞ぐ。

指の動きは驚くほど緩慢なのに、翠の舌は全然違った。

数日前に寝所でカヤを追い詰めてきた時よりも、ずっとずっと容赦無く。

まるでカヤの気を、痛みから逸らそうとしてくれているようだった。

酷く乱暴な舌先は、その代わり、じれったさすら感じる指先の動きを浮き彫りにしていた。

繊細に、慎重に、しかし確実に、カヤが知る由も無かった悦楽の場所を探り当てては、その度に知らしめて来る。

たった一人、翠だけが知っている場所を。

この世界中で、誰でもなく、唯一翠だけが知っている、その深層を。

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