【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
手の中にある髪飾は、それなりの重量感があった。
木製では無い。きっと銀製だ。

それに何よりも驚いたのは、髪飾に付いている石だった。

キラリと輝くその黄金色の石には、嫌でも見覚えがある。
間違いない。琥珀だ。

「わ、私、こんな高価なもの理由も無く貰えないよっ……」

銀は高価なのだとカヤは知っていた。

そしてそれ以上に、この琥珀と言う石が高価なのだと言う事も。

慌てて髪飾を返そうとしたしたが、ミナトはそんなカヤの手を制した。

「まあ待てや。サヨから卸価格で売って貰えたから、多分お前が考えてるよりは安いぞ」

「でも……」

「それに、前に俺から一本取っただろ。褒美とでも思っとけ」

「と言われましても、あれは一本取ったとは言えないような……」

幾らなんでも、こんなの申し訳なさすぎる。

ミナトはカヤに大変良くしてくれるが、カヤはミナトに迷惑しか掛けていないのだ。


困り果てて手の中の髪飾を見下ろしていると、

「良いから。ほれ、貸せ」

そんな声と共に、ミナトに取り上げられた髪飾は、優しくカヤの髪に差し込まれた。

「やっぱり、思った通りだ」

腰を折っているため、普段よりも近い距離にあるミナトの顔が綻んだ。

「お前の瞳に良く合ってる」


―――――優しい記憶が、ゆっくりと頭をもたげる。

その瞳みたいだから、と。

幼い頃、髪飾を送ってくれたミズノエも、同じ事を言ってくれた。


(……ミズノエ。ねえ、わたし)

ずっとずっと、心の底でミズノエに悔悟していた。

病気の子の薬の足しにするためとは言え、髪飾を手放した事を怒っているんじゃないか、って。

永遠に成長する事の無い優しいあの子を差し置いて、のうのうと息をするカヤを恨んでいるんじゃないか、って。


しかしこうして、再びこの石を手にする事が出来た。

カヤが単純にそう思いたいだけなのかもしれないが、失った髪飾りが、形を変えてまた戻ってきてくれたような気がした。

ミズノエが、怒ってないよ、ってカヤに向かって笑ってくれているような気がした。


大切な、とても大切だった、あの頃のカヤの生きる理由そのものが。




「……おいコラ、泣くところか?ここ」

ミナトが苦笑い交じりに言った。
カヤの瞳からは、ぽろぽろと涙が零れていた。

「ご、ごめ、違うの……嬉しくてっ……」

袖で目元を拭ったカヤは、ミナトに万遍の笑みを向けた。

「ありがとう、ミナト。この石、凄く大切な石なの。絶対に大事にする。ありがとう」

言っている間にも、次から次へと涙が溢れ出てきて、カヤは慌てて再び俯いた。

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