【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
三人は誰からともなく食事を始めた。

基本的にハヤセミもミナトもあまり世間話と言うものはしないようだった。

勿論カヤも、二人と仲良くお喋りするはずもない。

三人の食事風景は、一緒に食べる意味があるのか不思議なくらいに至って静かなものだった。


無言で食事を進めてしばらく経った頃、ようやくハヤセミが口を開いた。

「北の採掘場の件はどうだ」

ミナトはすぐに言葉を返した。

「調査させたところ、やはり地盤が緩んでいました。左に逸れるようにして掘れば問題無いようですが、そのまま真っすぐ進んだ方が石の密集地帯に入るようです。掘り進めるならば洞窟内の補強は必須かと」

時折、こうして二人は食事中に公務に関わる会話を交わす。

むしろ二人が、公務以外の事を話題にしたことを見たことが無い、と言った方が正しい。


砦に戻ってきたミナトは、ハヤセミの補佐として忙しく働いているようだった。

どのような事をしているのか詳しくは分からないが、二人の会話を聞くところ、公務の中には採掘現場の管理が含まれているらしい。


「補強に必要な期間は」

「ざっと三十日程度です。一日の採取量はおよそ五斤なので、三十日で二十四貫……大きな損失にはなりますが、補強後に採掘人員を三名追加し、一日につき二斤強ほど採掘量を増やせば六十日で採算は取れます」

「成程、その程度か……」

そう呟き、ハヤセミは考える仕草を見せると、しばしの後、再び口を開いた。

「では補強を優先しろ。納めるはずだった石は、至急別の採掘所から回すよう手配を……」

「済んでいます」と、ハヤセミの言葉を遮ってミナトが言った。

「既に各方面の手配は済んでおりますので、兄上のご承諾さえ頂ければ、すぐに補強に入れる手筈になっております」

テキパキとそう言ったミナトに、ハヤセミは、ふ、と笑いを零す。

「張り切ってるな」

「いえ、当然の事でございます」

小さく頭を下げ、再び食事を口に運ぶミナトを、カヤは横目でチラリと見やった。

翠の国に居た時は兵として毎日のように剣を振るっていたのに、今はその面影はほとんど無い。


(……ミナトじゃないみたいだ)

似つかわしい、と思った。

けれどそれも当たり前なのかもしれない。
だってミナトは、ミナトじゃなかったのだから。



カヤは、眼が覚めたあの日から、まともにミナトと会話をしていなかった。

ミナトもまた、カヤを避けているのか、単純に忙しいのか、一度も部屋には訪れなかった。

その上、前述の通り律は居ない事が多い。

そして神の娘では無くなったため、日常的にさせられていた『お祈り』をする事も無い。

砦での日々は、今までに無いほどに有閑としていた。

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