【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
二人きりになった部屋の中、カヤもミナトも、ほっと安堵の息を吐いた。
あれだけ痛かった腹も、今はすっかりと落ち着いている。
カヤが暴れまわったせいと、ミナトの肩を斬ってしまった事への動揺で、お腹の子供も吃驚してしまったのかもしれない。
申し訳ない気持ちでお腹を撫でていると、疲れ果てたような表情のミナトが口を開いた。
「……落ち着いたか?」
「うん、かなり……と言うか、あの……怪我、大丈夫?ごめん……」
既に血は止まっているようだが、傷周辺の衣は痛々しく血で染まっている。
カヤがおずおずと謝ると、ミナトは自分の衣を見て驚いたような仕草を見せた。
どうやら今の今まで怪我をしていた事に気が付いていなかったらしい。
「ああ、かすり傷だ。唾付けときゃ治る」
軽い調子で言ったミナトは、床に転がっているカヤの短剣に向かってスタスタと歩いていく。
「お前、割と良い動きするから驚いたわ」
言いながら短剣を拾い上げたミナトは、それをじっくりと見つめながら「へー」と感嘆の声を漏らした。
「気合い入った細工してんな。つーか、えらく柄が細身だな。ちゃんと女のお前でも扱いやすいような形になってる。いや、寧ろ男には軽すぎるな……そもそもが女用か……?」
ビュッ、と軽く短剣を試し振りし、それをカヤに渡しながら「どうしたんだ、これ?」とミナトが尋ねた。
「翠に貰ったの」
しっかりとそれを受け取りながら答えると、ミナトは合点が入ったように頷いた。
「あー、成程。そりゃ良い剣に決まってるか。しかもそれ、お前の体格に合ってるな」
「……そうなの?」
「おう。お前の身長なら、長剣より短剣の方が扱いやすいんだろうな。それにお前、意外にもすばしっこいし、短剣の方が懐に入り込みやすいか……あー、しまったな。だったらそっち中心に稽古しとくべきだったな。今更遅いか……?長剣の癖付いてるしな……いやでも今の内に短剣の振り方に矯正しとけば、かなり接近戦が有利に……」
「……ふはっ」
ぶつぶつと呟いているミナトに、カヤは吹き出してしまった。
「あ?何だよ?」
乱暴な口調で返してきたミナトを見て、更にくすくす笑いが大きくなる。
「あはは、ごめん。ミナトはミナトだなあって思って」
この砦に来てからミナトが剣を振るっている所を一度も見たことは無かった。
きっと公務が忙しくて、それどころじゃなかっただろう。
あれだけ日常の傍にあった剣から離れ、あくせく働くミナトは、もう剣のことなんてすっかり忘れてしまったのかと思っていたが。
あれだけ痛かった腹も、今はすっかりと落ち着いている。
カヤが暴れまわったせいと、ミナトの肩を斬ってしまった事への動揺で、お腹の子供も吃驚してしまったのかもしれない。
申し訳ない気持ちでお腹を撫でていると、疲れ果てたような表情のミナトが口を開いた。
「……落ち着いたか?」
「うん、かなり……と言うか、あの……怪我、大丈夫?ごめん……」
既に血は止まっているようだが、傷周辺の衣は痛々しく血で染まっている。
カヤがおずおずと謝ると、ミナトは自分の衣を見て驚いたような仕草を見せた。
どうやら今の今まで怪我をしていた事に気が付いていなかったらしい。
「ああ、かすり傷だ。唾付けときゃ治る」
軽い調子で言ったミナトは、床に転がっているカヤの短剣に向かってスタスタと歩いていく。
「お前、割と良い動きするから驚いたわ」
言いながら短剣を拾い上げたミナトは、それをじっくりと見つめながら「へー」と感嘆の声を漏らした。
「気合い入った細工してんな。つーか、えらく柄が細身だな。ちゃんと女のお前でも扱いやすいような形になってる。いや、寧ろ男には軽すぎるな……そもそもが女用か……?」
ビュッ、と軽く短剣を試し振りし、それをカヤに渡しながら「どうしたんだ、これ?」とミナトが尋ねた。
「翠に貰ったの」
しっかりとそれを受け取りながら答えると、ミナトは合点が入ったように頷いた。
「あー、成程。そりゃ良い剣に決まってるか。しかもそれ、お前の体格に合ってるな」
「……そうなの?」
「おう。お前の身長なら、長剣より短剣の方が扱いやすいんだろうな。それにお前、意外にもすばしっこいし、短剣の方が懐に入り込みやすいか……あー、しまったな。だったらそっち中心に稽古しとくべきだったな。今更遅いか……?長剣の癖付いてるしな……いやでも今の内に短剣の振り方に矯正しとけば、かなり接近戦が有利に……」
「……ふはっ」
ぶつぶつと呟いているミナトに、カヤは吹き出してしまった。
「あ?何だよ?」
乱暴な口調で返してきたミナトを見て、更にくすくす笑いが大きくなる。
「あはは、ごめん。ミナトはミナトだなあって思って」
この砦に来てからミナトが剣を振るっている所を一度も見たことは無かった。
きっと公務が忙しくて、それどころじゃなかっただろう。
あれだけ日常の傍にあった剣から離れ、あくせく働くミナトは、もう剣のことなんてすっかり忘れてしまったのかと思っていたが。