【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「……この先、あの国が完全に崩れてしまったとしたら、そのきっかけを作ったのは間違いなく私です。貴方にあれほど言われたのに……あの時の言葉を信じなくて、ごめんなさい……」

確かにあの後、カヤは本気で身投げを考えた。

けれどすんでの所で翠に止められ、そして一度は離れた彼の元へまた戻ってしまったのだ。

あのまま離れたままで居れば、翠はまだあの素晴らしい力を宿したままだったかもしれない。

あの時のカヤの甘えが、国の未来を揺るがす事になってしまったのかもしれないのだ。

責任を感じるな、と言う方が無理な話であった。


(どうすれば良かったんだろう)

今となってはもう、何処で何を間違ってしまったのか分からない。

一体何をしていれば、翠の力を失わせずに済んだのだろうか。



「お主……」

膳が得も言えぬ表情で呟いた時、背後から声が聞こえた。

「―――――膳様。お話中申し訳ありません。少しよろしいですか」

振り向くと、そこには一人の男が立っていた。

目付きは鋭く、その頬には真一文字の傷がある。

まさに『ガラの悪い』と言う言葉がぴったりと似合う男だ。

「どうした、虎松」

この男はあの日森でカヤとミナトを襲った男だ。

しかもミナトを崖から突き落とすように指示した首領格でもある。

カヤは不愛想なこの虎松が少し苦手だったが、集落の女達曰く、かなり頼れる男だそうだ。

現に他の男達が出稼ぎに行っている中、この虎松だけは集落に残り、膳の傍に仕えている。


虎松はカヤに一切見向きもしないまま、膳に向かって言った。

「翠様達が近くまで来られています」

「えっ」

先に言葉を発したのはカヤの方だった。
じろり、と虎松に見据えられ、慌てて口を手で覆う。

「なんと、そうなのか。それではお出迎えを……ああ、丁度御着きになられたな」

カヤは勢いよく振り返った。
森の中から数頭の馬達が姿を現したのが見えた。

そして、馬に乗っているその人物を見止めた瞬間、カヤの足は既に動き出していた。

「翠っ……!」

嬉しくて駆け寄って行ったカヤは、不意にピタリと足を止める。

翠の後方に、ここに来るはずの無い人達の姿見えた気がしたのだ。


「――――カヤちゃーん!」

「――――カヤー!」

気のせいでは無かった。
酷く懐かしい二つの声が、カヤを呼んでいた。


「……う、嘘……」

一瞬呆然としてしまって、しかしすぐに走り出す。

「ナツナー!ユター!」

すぐに馬を降りた二人は、泣きそうな顔で駆け寄ってくると、カヤに思い切り抱き着いてきた。

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