【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「カヤちゃん!良かった……!良かったです……!」

「もう、心配で死にそうだったわよ!無事で良かった……!」

ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、カヤもまた必死に二人に腕を回す。

「ごめん、ごめんねっ……心配かけてごめん……」

謝りながらも、カヤの顔には万遍の笑みが浮かんでいた。

翠と再会出来た時と同じくらいに、とても嬉しかった。

一言もサヨナラを言えず、もしかしたら一生会えないのでは、と思っていた二人とこうして会えるなんて、夢でも見ているようだ。


「元気なの!?怪我はしてない!?」

「うん、全然大丈夫――――」

「お、おまえらっ……なんで……」

背後からそんな声が聞こえてきた。
振り返ると驚愕顔のミナトが立っていた。

慌てて屋根の上から降りてきたのか、釘を打ち付ける用の木材を手に持ったままだ。


「あ、ミナト!ねえ、二人ともわざわざ来てくれた、ん……だよ……」

喜び勇んでそう報告しようとしたカヤの声は尻切れトンボになった。

カヤを抱き締めていたナツナが静かに離れ、スタスタとミナトに向かって歩いていったからだ。

「ナ、ナツナ……」

こちらからナツナの顔は見えなかったが、ギクッとしたようにミナトが後ずさりをしたので、もしかしたら般若のような顔をしていたのかもしれない。

ナツナはそのか細い腕を振り上げると、パァンッ――――――と言う見事な音を立てて、ミナトの横っ面を張り倒した。


「自分が何をしたのか分かっているのですか!」

鋭い叱咤が空気を切り裂いた。

ミナトは殴られた頬を押さえながら、呆然とナツナを見つめている。

「このっ……大馬鹿で、考え無しで、すっとこどっこいの、おたんこなす!」

ナツナはあらんかぎりの悪口を投げつけながら、一言ごとにミナトを引っ叩いていた。

ナツナがここまで激昂し、罵り言葉を吐くのなんて初めて見たため、カヤもユタも止めるのを忘れて唖然としてしまった。



「……止めなくても大丈夫なのか?」

「わっ」

いきなり背後から声を掛けられたので、カヤは飛び上がった。

いつの間にか近くまで来ていた翠が、心配そうに二人の様子を見つめている。

翠のおかげで意識を取り戻したカヤとユタは、慌てて未だにミナトを叩き続けているナツナを止めに行った。


「ナツナ、落ち付いてっ」

「離すのです!私はまだ怒っているのです!」

二人がかりで押さえているにも関わらず、ナツナの動きは止まらない。

彼女が見た目に寄らず力持ちなのを忘れていた。

カヤとユタは、遂にナツナの両腕に全体重を掛けてしがみ付く事で、どうにか彼女の動きを止める事に成功した。
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