【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
――――――この集落に身を寄せて、早い事にもう二年と半年が過ぎようとしていた。




丁度二年ほど前、予定していたよりも少し早い時期に産まれた蒼月だったが、今やすっかり元気いっぱいな男の子に成長しつつあった。

金の瞳に、金の髪。

やはり危惧していた通り、蒼月はカヤの特徴を受け継いでしまった。

それでも有り難いほどに彼を可愛がってくれる集落の人達のおかげで、カヤはあまりそれを気にせずに居る事が出来た。


「ナツナも膳様も、蒼月を見ていて下さってありがとうございました」

家の中に入りながら礼を言ったカヤに、二人は首を横に振る。

「全く構わん」

「当然の事なのですよ。カヤちゃんはお稽古に集中なさって下さいな」

そう言ってくれた二人に、カヤはもう一度礼を繰り返した。



お産後、しばらく体力が戻らなかったカヤだったが、蒼月がすり潰した食事を採れるようになった辺りから、再び剣の稽古を再開させていた。

勿論、翠は大いに心配していたし、カヤも悩みに悩んで決めたことではあった。

しかし男手がほとんど無いこの集落で、大切な人達を守るためにもカヤがその選択をするのは、ほとんど当然の事であった。

とは言え、以前稽古を付けてくれていたミナトは居ないし、翠もタケルもほとんど居ない。

そこで白羽の矢が立ったのは、膳の腹心の部下である虎松だった。

不愛想だし見た目も怖い虎松を、カヤは少し苦手に感じていたが、意外にも彼は面倒見が良いらしく、毎日のようにカヤの稽古に付き合ってくれた。

虎松はミナト達ほど化け物染みた強さでは無いものの、それでもかなり腕が立つため、カヤは彼の指導のお陰で、どうにか真剣でやり合える程度にまでなっていた。



――――とにかく強く、強く。

温かく接してくれる集落の人達のためにも、カヤはその思いを胸に、日々稽古に励んだ。

そしてそんなカヤが稽古をしている間は、主に膳とナツナが蒼月を見ていてくれた。

おかげで蒼月もすっかり二人に懐きっぱなしである。
全く持って頭が上がらない。


「じぃじー、これー」

カヤに下ろされた蒼月は、床に散らばっていた木製の玩具を一つ手に取り、膳に差し出した。

「んー?どうしたのだ?」

「あげるー」

「おお、じぃじにくれるのか。ありがとうなぁ」

緩み切った頬でそれを受け取った膳は、わしゃわしゃと蒼月の頭を撫でる。

カヤとナツナは眼を見合わせ、その嬉しい光景に、ふふ、と笑い合った。

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