【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
蒼月は膳の事を「じぃじ」と呼んで、特に懐いていた。

膳もまた、まるで目に入れても痛くない、と言っても過言ではない程に蒼月の事を可愛がってくれている。

血の繋がった祖父が居ない蒼月に対して、膳はまるで本当の孫のように接してくれた。



「さてと、そろそろご飯作ろうかな。膳様もナツナも、良かったら食べていって下さい。美味しそうなお芋を貰ったんです」

貰った芋を手に取りながら、カヤは二人にそう声を掛ける。

ナツナの指導のおかげで、大抵の炊事はカヤ一人でこなせるようになっていた。

「では、お言葉に甘えさせて頂くのです。ね、膳様」

「うむ。そうだな」



炊事の邪魔にならないよう袖を止め、さあ、始めよう、とした時だった。

「かかー」

不意に駆け寄ってきた我が子に、カヤは手を止める。

「ん?なあに?」

「とと、来るよー」

その言葉に、カヤはハッとして炊事場の小さな窓から外を覗く。

夕焼けで真っ赤に染まる集落の中、丁度向こうの森から一頭の馬が姿を見せた。

そこに乗っている人物の姿を見止めた瞬間、カヤは蒼月を抱き上げた。

「出迎えてきます!」

ナツナと膳にそう言って、勢い良く家を飛び出す。



「―――――翠!」

集落の外れの柵に馬を繋いでいた翠が、カヤの声に振り返った。

「カヤ!」

嬉しそうに笑った翠に、カヤもまた万遍の笑みを浮かべながら駆け寄った。

「おかえりなさい!タケル様は?」

「もう少ししたら着くよ思うよ。今、追手が居ないか確認してくれている」

「それなら良かった。ほら蒼月。ととに、おかえりーって」

腕の中の我が子にそう呼びかけると、蒼月は舌足らずに言った。

「おかえりぃ」

「ただいま、蒼月。ちゃんと良い子にしてたか?」

蒼月の柔らかな髪を撫でながら、翠が優しく言葉を掛ける。

「してたぁ」

「本当か?」と怪しそうに翠が苦笑いすると、蒼月は小さな両手をせがむように伸ばした。

「とと、だっこー」

「よし、おいで」

カヤから蒼月をしっかりと受け取った翠は、「おお」と驚きの声を上げた。

「また重くなったな」

「でしょ。最近ご飯いっぱい食べるんだよ」

夕焼けが影を長く伸ばす中、カヤと翠は連れ立ちながら、家へのあぜ道を歩む。

久しぶりに父親に会えたからか、蒼月は翠の腕の中でご機嫌そうな様子だ。


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