【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
(私は、どうするべきなんだろう)

翠の妻として相応しい人間になりたい。
けれど蒼月には翠とは全く違う、普通の道を歩んでほしい。

彼の隣を望むのなら、心を鬼にしてでも決断すべきなのだろうが、それでもやっぱりカヤは、蒼月が愛おしくて心配で堪らなかった。

(……私には、選べない)

それ以上言葉が出てこなかった。

肯定も否定も出来ず、曖昧に頷いたカヤの頭を、翠が慰めるように二度撫でた。










「ミナト。カヤを助けてくれた事、深く感謝する」

パチパチと爆ぜる焚き火を囲み、翠がミナトに頭を下げた。

無事に再会を果たしたカヤ達は、翠とタケルを伴ってミナトが待つ洞窟へと戻ってきていた。

洞窟を抜けた先に広がっている外は、すでにとっぷりと日が暮れ、秋の虫が涼やかに鳴いている。

頭を下げる翠の隣には、すやすやと眠る蒼月を抱いたカヤ、続いてミナトが座り、カヤの向かい側にはタケルがどっかりと胡座を掻いている。

洞窟よりも村の方が身を隠しやすい言う理由で、ナツナ、ユタ、膳、虎松、そして弥依彦はそのまま村に残る事になった。



「いやいや、やめて下さいよ、翠様」

ミナトが首を横に降った。

「どっちかって言うと、俺なんかより律の方が……って、何処行ったんだ、あいつ?」

ミナトがキョロキョロと辺りを見回した。

確かに、一緒に洞窟へ帰ってきたはずの律は、先程から姿を見せていなかった。

そう言えば帰路に着く時も、なんとなく普段より口数が少なかった気もする。

「私、捜してくるよ。翠、蒼月をお願い」

少し心配になったカヤは翠に蒼月を任せると、洞窟の奥へと向かって歩いていった。


「律ー?どこー?」

ほぼ真っ暗とも言える洞窟内を、小さな松明を手にしながら歩く。

洞窟内は想像以上に入り組んでいたため、気をつけなければ迷ってしまいそうだった。

洞窟の壁には時折横穴が空いており、中には天然に出来たらしい小さな部屋が幾つもあった。

カヤはその部屋の中を一つ一つ覗きながら律を探した。

と、六個目の部屋を覗き込んだカヤは「あ」と声を上げた。

部屋の隅の暗闇に浮かぶ白い姿を発見したのだ。

「律、やっと見つけた。何してるの?こんな所で……」

こちらに背を向けて蹲っている律の背中に松明をかざしたカヤは、言葉を途切れさせた。

「りっ……律!」

炎に照らされた律の顔が、あまりにも青白かったのだ。

慌てて律に近寄り、その顔を覗き込んたカヤは、驚愕した。

「どうしたの!?具合悪いの!?」

彼女の顔色は、悪いなんてものでは無かった。

唇は血色を失い、額には脂汗が滲んでいる。

苦しいのか、眉根は強く歪んでいた。
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