【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「蒼月……」
かつてカヤは、力を失い、夢を諦めかけていた翠に言った。
この国はとても綺麗だ、と。
どうか眼を逸らさないで、と。
そうして、の絶望とも言える状況で、翠は立ち上がってくれた。
なりふりも構わず歯を食いしばって、あれだけ渇望した夢のほんの一歩手前まで、己の力で辿り着いたのだ。
カヤは先ほどタケルから受け取った短剣を見下ろした。
傷だらけの柄の上で、薄緑色の石が優しい輝きを放っている。
それはまるで、どんな逆境に陥っても曇る事の無かった翠の瞳のように。
「……意志のあるところに、道は開く」
かつて彼から貰った言葉と共に、短剣を胸に抱きしめる。
――――嗚呼、覚悟を決める時なのかもしれない。
きっとやり遂げねばならないのだ。
どれだけ無様でも、どれだけ苦しくても、例え足掻いた先で道が絶えてしまったとしても。
だってここで翠の意志を捨ててしまえば、彼が歩んだ軌跡すら無かった事になってしまう。
カヤは、ぐっと涙を強く拭うと顔を上げた。
あの人と同じように、しゃんと背筋を伸ばして、胸いっぱいに深呼吸をして、そして目の前に広がる景色を真っ直ぐに見つめる。
雨粒に濡れた世界は、しっとりとした輝きを見せ底の無い透明感に覆われていた。
(翠みたいな雨だ)
そんな事を思えてしまうほどに、愛おしかった。
あの人の全てが、もう可笑しいくらい何だって愛おしかった。
だったら私は。
「……絶対に守ってみせる」
この美しい世界で息をする、翠が守りたいと願った人達を。
――――それが例え、あの人が居ない世界に残された、あの人が愛した存在なのであっても。
「タケル様!」
今まさに馬に乗って出発しようとしていたらしいタケルは、カヤの大声に驚いたように振り向いた。
タケルの隣には、見送りのためかナツナと弥依彦が居る。
三人は、突如息を切らして現れたカヤに、目を丸くした。
「カヤッ?どうしたのだ?」
「お、お待ちくださいっ……お話があるのです……!」
顎から滴ってくる雨を拭いながら、カヤは息も絶え絶えに訴えた。
「話しだと?」
困惑したような表情で馬を降りたタケルに、「はい」と頷く。
「翠達の捜索は、もう中止して下さい」
きっぱりと言い切れば、タケルは度肝を抜かれたように眼を見開いた。
「な、何を言いだすのだ!お主、もう諦めたとでも言うのかっ……」
「諦めてなどいませんっ!」
大声で遮った瞬間、タケルが思わず、と言ったように口を紡いだ。
タケルが黙ってくれた隙に、カヤはまくしたてるように言った。
「私だって諦めてはいません。けれど、いつ川が氾濫するか分かりません。このままじゃ捜索してくれているヤガミさん達が巻き込まれてしまいます」
恐らくヤガミ達は、翠と律が流されたであろうあの川沿いを捜索してくれているのだろう。
それは大変に有り難い事だが、それでヤガミ達が氾濫に巻き込まれてしまっては、元も子も無い。
かつてカヤは、力を失い、夢を諦めかけていた翠に言った。
この国はとても綺麗だ、と。
どうか眼を逸らさないで、と。
そうして、の絶望とも言える状況で、翠は立ち上がってくれた。
なりふりも構わず歯を食いしばって、あれだけ渇望した夢のほんの一歩手前まで、己の力で辿り着いたのだ。
カヤは先ほどタケルから受け取った短剣を見下ろした。
傷だらけの柄の上で、薄緑色の石が優しい輝きを放っている。
それはまるで、どんな逆境に陥っても曇る事の無かった翠の瞳のように。
「……意志のあるところに、道は開く」
かつて彼から貰った言葉と共に、短剣を胸に抱きしめる。
――――嗚呼、覚悟を決める時なのかもしれない。
きっとやり遂げねばならないのだ。
どれだけ無様でも、どれだけ苦しくても、例え足掻いた先で道が絶えてしまったとしても。
だってここで翠の意志を捨ててしまえば、彼が歩んだ軌跡すら無かった事になってしまう。
カヤは、ぐっと涙を強く拭うと顔を上げた。
あの人と同じように、しゃんと背筋を伸ばして、胸いっぱいに深呼吸をして、そして目の前に広がる景色を真っ直ぐに見つめる。
雨粒に濡れた世界は、しっとりとした輝きを見せ底の無い透明感に覆われていた。
(翠みたいな雨だ)
そんな事を思えてしまうほどに、愛おしかった。
あの人の全てが、もう可笑しいくらい何だって愛おしかった。
だったら私は。
「……絶対に守ってみせる」
この美しい世界で息をする、翠が守りたいと願った人達を。
――――それが例え、あの人が居ない世界に残された、あの人が愛した存在なのであっても。
「タケル様!」
今まさに馬に乗って出発しようとしていたらしいタケルは、カヤの大声に驚いたように振り向いた。
タケルの隣には、見送りのためかナツナと弥依彦が居る。
三人は、突如息を切らして現れたカヤに、目を丸くした。
「カヤッ?どうしたのだ?」
「お、お待ちくださいっ……お話があるのです……!」
顎から滴ってくる雨を拭いながら、カヤは息も絶え絶えに訴えた。
「話しだと?」
困惑したような表情で馬を降りたタケルに、「はい」と頷く。
「翠達の捜索は、もう中止して下さい」
きっぱりと言い切れば、タケルは度肝を抜かれたように眼を見開いた。
「な、何を言いだすのだ!お主、もう諦めたとでも言うのかっ……」
「諦めてなどいませんっ!」
大声で遮った瞬間、タケルが思わず、と言ったように口を紡いだ。
タケルが黙ってくれた隙に、カヤはまくしたてるように言った。
「私だって諦めてはいません。けれど、いつ川が氾濫するか分かりません。このままじゃ捜索してくれているヤガミさん達が巻き込まれてしまいます」
恐らくヤガミ達は、翠と律が流されたであろうあの川沿いを捜索してくれているのだろう。
それは大変に有り難い事だが、それでヤガミ達が氾濫に巻き込まれてしまっては、元も子も無い。