【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「貴方がですか?」

ハヤセミが怪訝そうな表情で言った。
完全に疑っているような目つきだ。

そんなハヤセミの溢れ出る不信感に気が付いているのかいないのか、弥依彦は誇らしげに胸を張る。

「そうだ!お陰で僕の中に隠されていた素晴らしい神力も目覚めた!」

「……そうですか。それは何よりです」

『素晴らしい神力』と言う言葉が、弥依彦の胡散臭さを決定的にしたらしい。

冷ややかに返答をしたハヤセミは、すぐにまたカヤに向き直った。

「クンリク様。それで、先ほどの話しの続きですが……」

「ハヤセミ!良く聴け!」

再び、弥依彦の大声がハヤセミを遮った。

「いい加減にして下さいませんか」

話しを中断され、ハヤセミの顔にはっきりとした不快感が現れた。

それでもめげない弥依彦は、二、三歩踏み出すと、興奮気味に捲し立てる。

「僕がこの数年間、翠と行動を共にしていたのは事実だ!そうでなければ、こうしてクンリクと共に現れる事なんて出来ない!そうだろう!?」

「はあ……まあ、それもそうですが」

「僕は、ただ翠の傍に居たわけじゃない!この国の利になるような情報を手に入れるため、ずっと機会を窺っていたんだ!」

「情報を?」

ハヤセミの声色から明らかに冷淡さが取り除かれたのが分かった。

弥依彦の話に、僅かなりとも興味を惹きつけられたようだ。

「そうだ!お前が到底知らないような事だぞ!」

嫌な予感を感じているカヤの目の前で、弥依彦がきっぱりと言い放った。

「僕は、翠が隠し続けていた『最大の秘密』を知っている!」

「っ弥依彦!」

カヤは、弥依彦の腕を強く引っ張った。

心臓がけたたましく暴れまわり、驚愕のあまり上手く言葉が出てこない。

「や、弥依彦……一体、何を……―――――」

「ほう。それは、どのような?」

今度は心臓が一回転した。

振り向けば、ハヤセミが玉座の上で興味深そうにカヤ達を見つめている。

もう弥依彦が馬鹿馬鹿しい戯言を言っているのだと思っている様子は無い。

今のカヤの反応が、弥依彦の言葉に真実味を与えてしまったようだった。


「ただでは教えられない」

腕を押さえているカヤの手を振り払い、弥依彦が強気に言った。

「成程、成程」と、ハヤセミが納得したように頷く。

「何か見返りが欲しい言う事ですね。良いでしょう、仰ってみて下さい」

「僕を、お前の第一側近にしろ」

弥依彦の言葉に迷いは無かった。

「そして婚礼の儀でそれを発布するんだ。その後で教えてやる!」

しん、とした一瞬の静寂後、広間に響いたのはハヤセミの高らかな笑い声だった。

「はっはっは!清々しいほどに腐ったお方ですね!」

それはカヤが初めて見るほど大きな笑い顔だったが、面白くて笑っていると言うよりも、寧ろ嘲笑に近かった。
< 592 / 637 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop