【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
目の前には、ハヤセミからカヤを隠すようにして、翠が立ち塞がっていた。
カヤ達を守ってくれようとする、そのしなやかな背中を眼にした途端、強烈な安堵感に襲われる。
全身の力が抜け、カヤはその場にヘナヘナ座り込んでしまった。
「何故ここに……貴女は、死んだはずでは……」
まるで幽霊でも見るような目つきで、ハヤセミが言った。
「どうにも死にきれなくてな。地獄から這い戻ってきたよ」
油断無く剣を構えながらも、嘲笑うように翠が言った時、バタバタと足音がした。
蔵光と、その仲間たち二人がこちらに走って来たかと思うと、ハヤセミの背後と左右に回り、脅すように剣を構えた。
聖堂を見渡せば、いつの間にやら武器を奪われた兵達がひと固まりにさせられ、周りを蔵光の仲間たちに囲まれていた。
どうやら蔵光達は、驚くほどの速さで砦の兵を無力化したようだった。
「さあ、ハヤセミ。剣を捨てろ。勝ち目は無い」
抵抗しても無駄だと悟ったのか、ハヤセミが憎々し気に剣を地面に置いた。
それを蔵光が回収したのを確認し、翠は剣を収めると、聖堂中の人々に体を向けた。
参列者達は突然の事態に恐れおののきながら、翠を見つめている。
「――――……隣国の翠様だ……何故ここに……?」
「――――……我が国を侵略に来たのではないか……?」
恐怖に満ちた視線を一身に受け止めながら、翠はぐるりと聖堂を見渡した。
そして、すう、と息を吐くと、次の瞬間なんと深々と頭を垂れた。
「この国の民よ。あなた方を驚かせてしまった事、深くお詫びする」
落ち着き払った、清澄な声色だった。
全くもって敵意が感じられないその態度に、人々は驚いたように顔を見合わせる。
「だが私はあなた方を傷つけるつもりも、ましてや命を奪うつもりも毛頭無い。どうか、私の話を聴いてほしい」
神官と言う立場を感じさせないその物腰の低さも相まって、恐らく翠の言葉は、参列者の心にぬるま湯のように入り込んだ。
ゆっくりと顔を上げた翠は、再び聖堂中の人々に眼を向けた。
今や、誰もが翠を食い入るように見つめていた。
「弥依彦殿の仰るお告げは真実だ」
翠は静かに言った。
「御存じの方もいらっしゃるだろうが、今の私に力は無い。では誰がお告げを口にしたのか、不思議に思われるだろう」
そこまで言った翠は、座り込んでいるカヤを顔を向けた。
パチリと眼が合う。
その瞬間、カヤは翠が何を言おうとしているのか分かった。
翠が小さく頷いた。
迷いの無い瞳の色を見て、カヤも決心した。
返事をするように頷いたカヤは、抱き締めていた蒼月を翠に渡し、立ち上がった。
翠と寄り添うようにして立ちながら、彼と共に聖堂中の人々を見渡す。
膝が震えたのは、何百人もの人たちに見られているからでは無かった。
カヤ達を守ってくれようとする、そのしなやかな背中を眼にした途端、強烈な安堵感に襲われる。
全身の力が抜け、カヤはその場にヘナヘナ座り込んでしまった。
「何故ここに……貴女は、死んだはずでは……」
まるで幽霊でも見るような目つきで、ハヤセミが言った。
「どうにも死にきれなくてな。地獄から這い戻ってきたよ」
油断無く剣を構えながらも、嘲笑うように翠が言った時、バタバタと足音がした。
蔵光と、その仲間たち二人がこちらに走って来たかと思うと、ハヤセミの背後と左右に回り、脅すように剣を構えた。
聖堂を見渡せば、いつの間にやら武器を奪われた兵達がひと固まりにさせられ、周りを蔵光の仲間たちに囲まれていた。
どうやら蔵光達は、驚くほどの速さで砦の兵を無力化したようだった。
「さあ、ハヤセミ。剣を捨てろ。勝ち目は無い」
抵抗しても無駄だと悟ったのか、ハヤセミが憎々し気に剣を地面に置いた。
それを蔵光が回収したのを確認し、翠は剣を収めると、聖堂中の人々に体を向けた。
参列者達は突然の事態に恐れおののきながら、翠を見つめている。
「――――……隣国の翠様だ……何故ここに……?」
「――――……我が国を侵略に来たのではないか……?」
恐怖に満ちた視線を一身に受け止めながら、翠はぐるりと聖堂を見渡した。
そして、すう、と息を吐くと、次の瞬間なんと深々と頭を垂れた。
「この国の民よ。あなた方を驚かせてしまった事、深くお詫びする」
落ち着き払った、清澄な声色だった。
全くもって敵意が感じられないその態度に、人々は驚いたように顔を見合わせる。
「だが私はあなた方を傷つけるつもりも、ましてや命を奪うつもりも毛頭無い。どうか、私の話を聴いてほしい」
神官と言う立場を感じさせないその物腰の低さも相まって、恐らく翠の言葉は、参列者の心にぬるま湯のように入り込んだ。
ゆっくりと顔を上げた翠は、再び聖堂中の人々に眼を向けた。
今や、誰もが翠を食い入るように見つめていた。
「弥依彦殿の仰るお告げは真実だ」
翠は静かに言った。
「御存じの方もいらっしゃるだろうが、今の私に力は無い。では誰がお告げを口にしたのか、不思議に思われるだろう」
そこまで言った翠は、座り込んでいるカヤを顔を向けた。
パチリと眼が合う。
その瞬間、カヤは翠が何を言おうとしているのか分かった。
翠が小さく頷いた。
迷いの無い瞳の色を見て、カヤも決心した。
返事をするように頷いたカヤは、抱き締めていた蒼月を翠に渡し、立ち上がった。
翠と寄り添うようにして立ちながら、彼と共に聖堂中の人々を見渡す。
膝が震えたのは、何百人もの人たちに見られているからでは無かった。