【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
彼女から感じるあまりにも真っすぐな感情に、カヤは胸が痛くなった。

それほどまでに思う翠の前で、恥を掻かせるのはあまりにも気の毒だ――――


「すいませんでした、タケル様!」

気が付けば、タケルとユタの間に割り込み、勢いよく頭を下げていた。

「……ぬ?」

「私が彼女にぶつかって花を折ってしまったので、代わりの物を混ぜました!すいませんっ!」

ギュっと眼を閉じながら、深く深く頭を下げる。

「なにぃ?」

頭上からタケルの訝し気な声が降ってきた。


(やばい。怒られる。死ぬほど怒られる)

咄嗟に身構えた時、翠の流れるような声が聞こえた。

「綺麗な花ではないか、タケル。白い花だけよりも、こちらの方がずっと良い」

思わず頭を上げると、翠と眼が合った。
その眼が小さく微笑み、そして一瞬後にはすぐに反らされる。


「……ふむ。まあ確かに、そう言われるとそうですな」

翠の発言のおかげか、花束をまじまじと見つめたタケルは納得する様子を見せた。
そして、カヤ達に向かって言った。

「ユタ……と、カヤ。明日の祭事もこれで華やかになるであろう。礼を言うぞ」

なんだか思いっきり付け足されただけのような気もするが、カヤは胸を撫で下ろしながら頭を下げた。

チラリとユタを見やると、その頬は花と同じくらい真っ赤に染まっていた。

「と、とととんでもございません!」

物凄い勢いで頭を下げたユタは回れ右すると、これまた物凄い勢いでその場を走り去っていってしまった。

残されたカヤがその背中を呆然と見つめていると、翠に声を掛けられた。

「カヤ。私はそろそろ部屋に戻るが、どうする?一緒に戻るか?」

その言葉に、カヤはハッとして、ナツナの事を思い出した。

「は!ナツナ……!」

花の捜索に夢中になりすぎて、ナツナの事を忘れていた。
カヤは慌てて翠に頭を下げた。

「す、すいません!私、ナツナの所へ戻ります!器を磨いている最中なので!」

焦りながらそう言うと、翠は「……器?」と首を捻りながらも、頷いた。

「そうか。では、また後で」

「はい!」

翠に背を向け、カヤは全速力で井戸へ戻った。

すっかり薄暗くなってしまった井戸の前に着くと、丁度ナツナが後片付けをしている所だった。

「ナツナ、ごめん!本当にごめん!」

必死に謝りながら駆け寄ると、こちらを振り向いたナツナがニコッと笑った。

「カヤちゃん!良かった。遅いので心配していたのですよー。器なら全部磨き終わったので気にしないで下さいな」

全然怒っていない様子のナツナに感謝を抱きつつ、カヤは慌ててナツナの片づけを手伝った。

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