【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
「お、怒られないかしら……」

カヤの後ろでユタが不安そうに呟く。

「その時は私も一緒に怒られる。一人より二人の方がまだ心強いでしょ。私なんかじゃ嫌かもしれないけど……はい、これ持って」

バサッ、とユタの腕の中に赤い花の束を落とす。
どこか殺風景で単調気味だったその花束が一気に華やかさを増す。


(うん、綺麗になったしさっきよりもずっと良いじゃないか)

きっと。多分。
カヤは、自分にそう言い聞かせるように頷いた。


十分な量になった花束を携えながら、カヤたちは急いで森を出た。
太陽は西の山の影に半分隠れ始めていて、空は不安さえ感じるほど深い紅に染まっている。

「ねえ、それどこまで持っていけばいいの?」

「ひ、広場までっ……」

全力で走りながら訪ねると、ユタが息を切らしながらそう答えた。

カヤ達がフラフラになりながら屋敷の敷地内にある広場まで着く頃には、先ほどまで見えていた太陽も完全に山の影に隠れてしまっていた。


「はあっ、はあ……疲れた……」

「もう、限界っ……」

肩で息をしながら広場に足を踏み入れると、そこには10人ほどの人影があった。

薄暗くなってしまった夕闇の中、目を凝らすとその人影の中に翠とタケルが居るのが見えた。
どうやら明日行われるお祈りの最終確認中らしい。

カヤ達が恐る恐る近づくと、ふと翠がこちらに気が付いて声を掛けて来た。

「ああ、カヤ。どうしたのだ?」

その言葉に隣のタケルもこちらを見やる。

「明日翠様がお使いになる花をお持ちしました。……ユタ、翠様にお花を……って、ユタ?」

隣に居ると思っていたユタの姿が無く、慌てて振り返ったカヤが見たのは、数歩後ろで石化しているユタの姿だった。

花を抱えたまま突っ立っているユタの顔は、夕闇の中でも分かるほどに真っ赤だ。

放心したように翠を見つめるユタの眼球は、まるで固定されてしまったように動かない。


カヤも、そして恐らく翠も、ユタの様子に気が付いて思わず固まる。
そんな中、空気を読まないようなタケルが、ユタに声を掛けた。

「おお、ユタ、待っておったぞ。遅かったな」

それが合図かのように、ユタはハッと意識を取り戻して、ぎこちない動作でタケルに花束を渡した。

「お、おおお遅れてしまって大変申し訳ありません!」

震えまくっているユタの手から花束を受け取ったタケルは、途端に奇妙そうな表情をした。

「……おや、いつもの花と違う花が混ざっているようだな」

その言葉にユタの肩が大きく揺れた。
カヤもギクッとする。

「も、申し訳ありません……」

謝るユタの声は、今にも消え入ってしまいそうなほど震えている。

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