危ナイ隣人
「お、いい匂い」


「……うん、ありがとう」



あぁ、沁みる。ささくれがある指先に、レモン汁じゃなくて塩を塗り込まれるようだ。


……え? 例えがわかりづらい?

ほら、唐揚げに添えられたレモンとかを絞る時、ささくれがあると沁みるじゃん。

あれ、地味に痛いよねー。でもきっと、塩の方が痛いと思うの、当社比では。



私が目の前のお鍋を指さすと、隣に立ったナオくんがずいっと覗き込んだ。

彼が何か言う前に、自分から白状する。



「……お鍋、焦げた。気をつけて混ぜてたんだけど。ごめん」


「俺は全然いい。オタマ貸してみ」


「ん」



唇を突き出して顔を逸らしたまま、オタマを差し出す。


それを受け取ったナオくんが、お鍋に入ったカボチャのポタージュを慎重にかき混ぜるのが横目に見える。



「……焦げ、剥がさないでね。苦くなっちゃうから」


「わかってるよ。……って、大して焦げてねぇじゃん。普通に、めちゃくちゃ美味そうな匂いするし」



気を遣っているわけでもなく、心の底から言ってくれているのがわかる口調。


うぅ、優しい。ありがたい。

でも、私の中のオトメゴコロが、今日だけは失敗したくなかったって言ってるんだよ……。



「これ出来たら完成か?」


「うん。器に移して、パセリをかけるだけ」
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