御曹司は偽婚約者を独占したい
彼女と出会い、彼女に触れて、俺は多くの〝はじめて〟を知った。
振り回されて、俺のことだけで心を埋め尽くし、俺のものになってしまえばいいと思った。
そして、そんな身勝手な想いをぶつけていたら、彼女は手のひらからすり抜けて、胸には大きな穴が空いた。
──彼女以外、考えられない。
そう思い、もう一度美咲に会いに、彼女が働くカフェへと向かったときには、もう何もかもが手遅れだった。
俺は、美咲を愛している。
彼女が俺と同じ想いでいることを知り、余計に彼女が愛しくなって……。
本当は、彼女の唇にキスをしたいと思ったのに、彼女を前にしたら頬にキスをするだけで精一杯になった。
──本当に、自分でもどうかしていると思う。
だけど、彼女を大切にしたい。
ずっと、この手で守り続けていきたいと思ったのだ。
世界中の誰よりも、彼女を幸せにしたいと思うなんて──やっぱり、俺にとってはすべてが初めての感情で、特別だった。
「……でもまぁ、最近の近衛を見てると、本当にお前のそばには、お前に良い影響を与えてくれる誰かがいるんだろうなってことだけは、わかるけど」
ふっと、息をこぼすように言った湊の言葉に現実へと引き戻された俺は、足元へと落としていた視線を上げた。
「……どういうことだ?」
「うん? あー、なんていうか、ちょっと前までは、お前って常に感情を表に出さないし、良い意味でも悪い意味でも淡々としてるっていうか……。仕事中も、何があっても冷静で、すべてをそつなく、こなしてたろ?」
言われて改めて考えなくとも、湊の言葉の通りだった。
それはそうすることが当たり前だと思っていたし、そうすることが秘書としても正解だと確信しているからだ。