青いチェリーは熟れることを知らない①
「……なによ。そんなに鳥頭と変わらないじゃない」
「…………」
何か言いたげな鳥居を無視したちえりはパパッと画面を戻し、バッグのなかへスマホを投げ入れた。スマホに罪はないが、なんとなく腹が立っていたので雑な扱いになってしまう。
「さて、飲み物も揃ったし乾杯と行きますか!」
ビールが三杯にグレープフルーツジュースが二杯。
「あれ? 私そんなに頼んだっけ……?」
目の前に置かれたグレープフルーツジュースふたつを見比べながらハテ? と首を傾げると――……
「それ俺のだから」
長い手が伸びてきて、ひとつのジュースが連れ去られてしまった。
「……あ、そう」
ちえりは大した興味もなく返事をかえし、周りに伺いの声をかける瑞貴に頷き、冷えたグラスを手に取った。
「ふたりとも、これからよろしくな!」
「こちらこそですっ!」
「若葉さん、鳥居さんようこそ我が社へ~!」
「末永くよろしく!!」
「どーも」
相変わらず熱のない返事はもちろん鳥頭のものだった。
そして次々に運ばれてくるカルビや豚トロ、タン塩などを美味しく頂いていると、物腰の柔らかい女性の声が耳に届く。
「あら? 桜田くんたちも来てたの?」
「ホントだ! やっほー!」
「……?」
ビールを傾けながら振り返った瑞貴と、上質な肉を口いっぱいに含んだ他四名の視線が声の主らへと集中する。
「三浦……? と、長谷川……」
「…………」
(あ、……あの美人なひとと、お昼一緒にいた……同じグループの人だ……)
三浦がクールな知的美人と例えるならば、彼女の背後から現れた長谷川はギャル系美人というべきかもしれない。くるりと巻いたパーマがショートヘアに良く似合い、明るめのカラーも上品だった。
「あ~! 鳥居っちもいるじゃん!」
「……どーも」
ノリの良さそうな長谷川が鳥居の傍で屈み込み、大胆にもグイグイと体を寄せてくる。
迷惑そうにジュースを傾ける鳥居はちえりのほうを向きながら退屈そうにため息を吐いた。
「……って、あんたの上司でしょ? そんな態度でいいの?」
「世話になってねぇし」
(けっ!! なんだこのガキッッ!! それが新人のいことかぁああっっ!!)
と、口には出さず。
「席……ご一緒していいかしら?」
と、上品な三浦がこちらを見やる。
「え? は、はい……大丈夫ですよ」
「三浦さんここどうぞ! 桜田さんの隣に座って下さい。俺こっちに移るんで」
「あら、いいの?」
気を利かせたちえりが鳥居との間をあけて座らせようとしたが、自身の株を上げようとした(?)吉川が席を立って佐藤七海のほうへ移る。そこへ"ありがとう"と微笑んで腰をおろした三浦理穂。
「…………」
その様子を見つめながら変わりゆく空気にちえりは黙ってしまった。
後から現れたふたりにより、場の雰囲気が全くの別物になってしまったからだ。
「ほら、桜田くんビールが空よ? 次なににする?」
「……ん、あぁ……」
「…………」
三浦がしゃべると瑞貴の反応が気になって、つい目で追ってしまう。
そのやり取りが何度か続いていると、バッグの中でスマホが音をたてた。
――ニャーンニャーンニャーン!
「え? 猫の鳴き声……?」
「猫連れてる人いませんよ~?」
「……っ! すみません、私のスマホです」
慌ててバッグを開け、もしかして真琴かな? と思いながら確認するが、全くの別人だった。
"差出人 鳥居隼人
件名 まぐろ
文章 チェリーと違って女子力高けぇよな"
「…………っ!!」
カッと目を見開きスマホを持つ手を震わせていると…
「ちえり?」
瑞貴が首を傾けながら声をかけてきた。
「うん!? な、なに? 瑞貴センパイ!!」
「いや、なんか怒りまくってるように見えたから……」
「あ、あぁ~ちょっと迷惑メールがねっ!!」
「ん、拒否の仕方わかんないならやってやろうか?」
と、手を伸ばされる。
「ううんっ!! 大丈夫、たぶんもう来ないと思いますのでっっ」
するとさらに。
――ニャーンニャーンニャーン!!
"差出人 鳥居隼人
件名 ……
文章 失礼なやつ"
「……っ!?」
大声をあげたくなる衝動を抑えながら"どっちがよっ!!" と鳥頭を睨むちえり。
「ほら~お肉焼けてるよ!」
鳥頭の向こう側では長谷川が炭火焼き奉行を買って出ており、それぞれの皿へ肉を取り分けてくれる。
「ほい! ちゃんと食べてねー!」
「あ、ありがとうございます」
ちえりは礼を言いながら長谷川の顔を見ると、彼女の大きな瞳がこちらをじっと見つめており、その目の奥に疑問の色を感じ取ったちえりは首を傾げる。
「……?」
「若葉っちだっけ?」
「は、はいっ」
些か馴れ馴れしい気もするが、新人のちえりにとってとても有難い。
彼女のように、特殊な呼び方をしている場合、下手に"さん"付けで呼ばれてしまうと疎外感があるからだ。
「桜田っちとどんな関係なの?」
そう言った彼女の瞳に曇りはなく、ただの興味からくるもののようで探りや駆け引きのような裏があるとは思えなかった。なのでちえりは普通に答えた。
「瑞貴センパイは……ずっと近所に住んでいた幼馴染のお兄さんなんです」
(……それでいて大好きなひと……)
「…………」
何か言いたげな鳥居を無視したちえりはパパッと画面を戻し、バッグのなかへスマホを投げ入れた。スマホに罪はないが、なんとなく腹が立っていたので雑な扱いになってしまう。
「さて、飲み物も揃ったし乾杯と行きますか!」
ビールが三杯にグレープフルーツジュースが二杯。
「あれ? 私そんなに頼んだっけ……?」
目の前に置かれたグレープフルーツジュースふたつを見比べながらハテ? と首を傾げると――……
「それ俺のだから」
長い手が伸びてきて、ひとつのジュースが連れ去られてしまった。
「……あ、そう」
ちえりは大した興味もなく返事をかえし、周りに伺いの声をかける瑞貴に頷き、冷えたグラスを手に取った。
「ふたりとも、これからよろしくな!」
「こちらこそですっ!」
「若葉さん、鳥居さんようこそ我が社へ~!」
「末永くよろしく!!」
「どーも」
相変わらず熱のない返事はもちろん鳥頭のものだった。
そして次々に運ばれてくるカルビや豚トロ、タン塩などを美味しく頂いていると、物腰の柔らかい女性の声が耳に届く。
「あら? 桜田くんたちも来てたの?」
「ホントだ! やっほー!」
「……?」
ビールを傾けながら振り返った瑞貴と、上質な肉を口いっぱいに含んだ他四名の視線が声の主らへと集中する。
「三浦……? と、長谷川……」
「…………」
(あ、……あの美人なひとと、お昼一緒にいた……同じグループの人だ……)
三浦がクールな知的美人と例えるならば、彼女の背後から現れた長谷川はギャル系美人というべきかもしれない。くるりと巻いたパーマがショートヘアに良く似合い、明るめのカラーも上品だった。
「あ~! 鳥居っちもいるじゃん!」
「……どーも」
ノリの良さそうな長谷川が鳥居の傍で屈み込み、大胆にもグイグイと体を寄せてくる。
迷惑そうにジュースを傾ける鳥居はちえりのほうを向きながら退屈そうにため息を吐いた。
「……って、あんたの上司でしょ? そんな態度でいいの?」
「世話になってねぇし」
(けっ!! なんだこのガキッッ!! それが新人のいことかぁああっっ!!)
と、口には出さず。
「席……ご一緒していいかしら?」
と、上品な三浦がこちらを見やる。
「え? は、はい……大丈夫ですよ」
「三浦さんここどうぞ! 桜田さんの隣に座って下さい。俺こっちに移るんで」
「あら、いいの?」
気を利かせたちえりが鳥居との間をあけて座らせようとしたが、自身の株を上げようとした(?)吉川が席を立って佐藤七海のほうへ移る。そこへ"ありがとう"と微笑んで腰をおろした三浦理穂。
「…………」
その様子を見つめながら変わりゆく空気にちえりは黙ってしまった。
後から現れたふたりにより、場の雰囲気が全くの別物になってしまったからだ。
「ほら、桜田くんビールが空よ? 次なににする?」
「……ん、あぁ……」
「…………」
三浦がしゃべると瑞貴の反応が気になって、つい目で追ってしまう。
そのやり取りが何度か続いていると、バッグの中でスマホが音をたてた。
――ニャーンニャーンニャーン!
「え? 猫の鳴き声……?」
「猫連れてる人いませんよ~?」
「……っ! すみません、私のスマホです」
慌ててバッグを開け、もしかして真琴かな? と思いながら確認するが、全くの別人だった。
"差出人 鳥居隼人
件名 まぐろ
文章 チェリーと違って女子力高けぇよな"
「…………っ!!」
カッと目を見開きスマホを持つ手を震わせていると…
「ちえり?」
瑞貴が首を傾けながら声をかけてきた。
「うん!? な、なに? 瑞貴センパイ!!」
「いや、なんか怒りまくってるように見えたから……」
「あ、あぁ~ちょっと迷惑メールがねっ!!」
「ん、拒否の仕方わかんないならやってやろうか?」
と、手を伸ばされる。
「ううんっ!! 大丈夫、たぶんもう来ないと思いますのでっっ」
するとさらに。
――ニャーンニャーンニャーン!!
"差出人 鳥居隼人
件名 ……
文章 失礼なやつ"
「……っ!?」
大声をあげたくなる衝動を抑えながら"どっちがよっ!!" と鳥頭を睨むちえり。
「ほら~お肉焼けてるよ!」
鳥頭の向こう側では長谷川が炭火焼き奉行を買って出ており、それぞれの皿へ肉を取り分けてくれる。
「ほい! ちゃんと食べてねー!」
「あ、ありがとうございます」
ちえりは礼を言いながら長谷川の顔を見ると、彼女の大きな瞳がこちらをじっと見つめており、その目の奥に疑問の色を感じ取ったちえりは首を傾げる。
「……?」
「若葉っちだっけ?」
「は、はいっ」
些か馴れ馴れしい気もするが、新人のちえりにとってとても有難い。
彼女のように、特殊な呼び方をしている場合、下手に"さん"付けで呼ばれてしまうと疎外感があるからだ。
「桜田っちとどんな関係なの?」
そう言った彼女の瞳に曇りはなく、ただの興味からくるもののようで探りや駆け引きのような裏があるとは思えなかった。なのでちえりは普通に答えた。
「瑞貴センパイは……ずっと近所に住んでいた幼馴染のお兄さんなんです」
(……それでいて大好きなひと……)