青いチェリーは熟れることを知らない①
ズキューン!! と、ハートを撃ち抜かれたちえりは珈琲をサイドテーブルに置くと――

「――――か、顔洗ってきま――――っ!!!」

 レッドフラッグへ突入する闘牛の如く、土煙をまき散らして走り去っていった。

「お、おう……」

 ちえりともう少しゆっくりしたいと考えていた瑞貴だが、無意識に発した言葉が仇となってしまったようだ。瑞貴は先ほどまで彼女が眠っていた己のベッドへ横たわり、わずかなぬくもりを求めて薔薇の毛布を抱き寄せる。

「…………」

(……まだ俺の手に落ちてきてくれない、か……)

――やがて半刻ほどして、すっかり身支度を済ませたちえりがリビングへ戻ってきた。

「おかえり、残りのグラタンにご飯敷いてドリアっぽくしたけど朝食それでいいか?」

「……っけ、結構でございますますっっ!!」

「ははっ! じゃあすぐ出来るから座って待ってて」

「は、はひっ!」

 ササッと忍者顔負けな身のこなしで、輝く王子スマイルに砕けてしまいそうな腰を落ち着かせたちえり。ソワソワと視線を彷徨わせたその時、だらしなく横たわる自分のスマホをソファの上で見つけた。

(あ……充電するの忘れてたっ!
……でも、そんなに使うことないし……今日一日くらい平気だよね?)

その安易な考えが、その後の運命を大きく左右するとは思ってもみなかった――。

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