初恋をもう一度。【完】
逃げ出すようにその場を離れた。
心臓が、校庭を3周走ったくらいバクバクしている。
『俺、奈々ちゃんが……』
もちろん教室で顔を合わせはするけれど、話をするのはあの日以来だった。
そもそも、第2音楽室以外で会話なんてしないから、びっくりするくらい緊張した。
でも、緊張した理由はそれだけじゃない。
なんて言えばいいのだろう……第2音楽室の鈴木くんと、教室にいる時や今さっきの鈴木くんは、少し雰囲気が違うのだ。
第2音楽室で会う鈴木くんの方が、距離がとても近く感じる。
まあ、第2音楽室にいる時は二人きりで、それ以外は周りに人がいるから、そんなの当たり前なのかもしれない。
呼び方だって、違うし……
「今のが奈々の好きな子け?」
隣を歩いていたおばあちゃんが、ニヤニヤ笑いながら肘で小突いてきた。
「な、なんでわかったん!? ……あっ」
急に言うから、つい口が滑ってしまった。
「奈々の顔に『好き』って書いてあったさ」
「ええっ……ほんとに!? やだぁ…」
ということは、鈴木くんにもバレバレなのだろうか。
そんなの恥ずかし過ぎる。
思わず顔を覆ったわたしを見て、おばあちゃんは
「あははは、青春だねえ」
楽しそうに笑った。