初恋をもう一度。【完】
「うん。俺らはサッカー用品買いに」
恩田くんが答えた。
鈴木くんと同じ、サッカー部なのだ。
「田崎さん、何買ったの?」
鈴木くんが、にっこり笑って尋ねた。
「あ、ピアノの楽譜……」
そう答えてから、鈴木くんがピアノのことを周りに内緒にしているのを思い出して、まずかったかな、と急に不安になった。
けれど、
「そうなんだ、なんの曲買ったの?」
鈴木くんは気にもせずに話を広げた。
もしかしたら、恩田くんは仲がいいから、鈴木くんのピアノのことを知っているのかもしれない。
「えっと、亡き王女の為のパヴァーヌ」
ダメだ、わたしさっきから、単語しか言えてない。
「あ、いいね。いい曲だよね」
「うん……あの」
弾けるようになったら、今度聴いてくれる?
そう言おうとして、でも恩田くんもおばあちゃんもいるから、恥ずかしくて言葉が出てこなかった。
「あ、あの、わたし、お父さん達待ってるから、行くね」
たどたどしく言葉を繋げると、鈴木くんは可笑しそうに目を細めた。
「うん、じゃあまた明日ね、田崎」