初恋をもう一度。【完】

小さい頃から、わたしのピアノの観客はずっとおばあちゃんだった。

おばあちゃんは「奈々のピアノは優しくて好き」と言って、いつも聴いてくれている。

「たまには、おばあちゃんも弾いたら?」

わたしがそう言うと、おばあちゃんは嬉しそうに笑って、ピアノの傍にやって来た。

椅子をおばあちゃんに譲って、わたしはその隣に立って見守る。

おばあちゃんのぷくぷくした右手が、鍵盤の上に乗った。

おばあちゃんは全体的に丸っこくて、腕も指もぷくぷく柔らかくて可愛い。

おばあちゃんの右手の人差し指が、遠慮がちにドの音を鳴らした。

ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ……

1本指でたどたどしく奏でられるのは『キラキラ星』だ。

おばあちゃんはこれしか弾けない。

でも、おばあちゃんのキラキラ星を聴くのが、わたしは大好きだ。

「いっぱい間違っちゃったねえ」

おばあちゃんは照れくさそうに笑った。

「でも、この間より上手になったさ」

「そっけ?」

「うん!」

わたしが頷くと、おばあちゃんはにこにこして、またピアノを鳴らす。

きーらー……き、らー、ひ……かーるー

その音に合わせて、2人で何度も何度も歌った。

*****


< 41 / 210 >

この作品をシェア

pagetop