初恋をもう一度。【完】
小さい頃から、わたしのピアノの観客はずっとおばあちゃんだった。
おばあちゃんは「奈々のピアノは優しくて好き」と言って、いつも聴いてくれている。
「たまには、おばあちゃんも弾いたら?」
わたしがそう言うと、おばあちゃんは嬉しそうに笑って、ピアノの傍にやって来た。
椅子をおばあちゃんに譲って、わたしはその隣に立って見守る。
おばあちゃんのぷくぷくした右手が、鍵盤の上に乗った。
おばあちゃんは全体的に丸っこくて、腕も指もぷくぷく柔らかくて可愛い。
おばあちゃんの右手の人差し指が、遠慮がちにドの音を鳴らした。
ド、ド、ソ、ソ、ラ、ラ、ソ……
1本指でたどたどしく奏でられるのは『キラキラ星』だ。
おばあちゃんはこれしか弾けない。
でも、おばあちゃんのキラキラ星を聴くのが、わたしは大好きだ。
「いっぱい間違っちゃったねえ」
おばあちゃんは照れくさそうに笑った。
「でも、この間より上手になったさ」
「そっけ?」
「うん!」
わたしが頷くと、おばあちゃんはにこにこして、またピアノを鳴らす。
きーらー……き、らー、ひ……かーるー
その音に合わせて、2人で何度も何度も歌った。
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