僧侶とホストと若頭、3つの顔に揺れる恋
「この話は時期を見て伝える。悠斗の若頭就任も考えている」

「時期を見てというと……何か事があるのか」

あたしは声を落として訊ねた。

「おめえに稼業の事は話せねえ」

「チッ、つまんねえな」

「話は終わりだ」

一礼して部屋を出ると「お嬢、お疲れさまでした」と、声を掛けられた。

「どういった話をなすったんです?」

あたしが物心ついた頃から組にいる、初老の組幹部沖永左京だ。

彼は親父の側近を務め、我孫子会の理事を任されている。

「神社での修行はどうだ? と訊ねられただけです」

古参の沖永は礼儀に厳しく、彼の前では「です」「ます」調で話すようにしている。

「お花にお茶、書道、作法など悠斗は丁寧にそつなく教示してくれるので楽しいです」

「それは宜しゅうございました」

声音は穏やかだが、彼の目は笑っていなかった。
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