モノクロに咲く花~MadColors~
ここは虹橋市立虹橋中学校――― 特に代わり映えのしない、一般的な公立校だ。
入学式が終わり、ひと月ほど経った。
一年生の教室付近では様々な小学校から集まった生徒達が同じ小学校からのグループでつるむこともあれば、新しい友人とともに騒ぐ姿もあり、落ち着かない雰囲気だ。
「ねえみてこのリップ、新色買っちゃったぁ!」
「お小遣いピンチって言ってなかった?」
「親と買い物に行ったついでにお願いしちゃった」
「い~な~」
クラスメイトの色っぽい会話を聞きながら、長い黒髪にカチューシャをした大人しそうな女子生徒は本を開いているものの、内容は頭に入ってきていない。
(わぁ、色っぽいなぁ。まだ中一なのに。けどそんなこと思ってるのも私だけだよね……。みんな中学になって途端に大人っぽくなってるし……)
如月一花、中学一年生。
クラスで学級委員を務め、成績は優秀。
口数は少なく、地味で目立たない。
そんな彼女は誰とも話さず一日を終えることも珍しくない。
さきほど賑やかに会話をしていたクラスメイトが、別のクラスメイトに声を掛けている。
「ねー、放課後カラオケいかない?」
「あ、いいね、行く!」
(もう仲良くなったんだ。別々の小学校だったのに)
一花は次の時限の教科書とノートを取り出し、ひっそりとまた空気と同化した。彼女には友達がいなく、気が付けば周りはグループを作っており、誘われることも自分で声を掛ける勇気もなくこれまで過ごしてきた。
(私の友達は本だけ。いつも本を読んで過ごしてた……。
本当に暗い日常だな……)
ぼうっと考え事をしていると、先ほど遊びに行く約束をしていた女子生徒が一花を見て叫んだ。
「ねえ如月さーん!」
「えっ、わ、私?」
突然話し掛けられたことに驚きつつも、ちょっとした期待を抱く。
「六限でやるグループ発表の課題、私の担当のとこ、やっといて!」
「え、でも……分担、決めたよね?」
しどろもどろな一花に、クラスメイトは畳みかけるように続ける。
「ねえお願い!途中まではやったんだけどさ、ハイ」
いつの間にか一花の近くまでやって来ていた彼女は、乱暴な言葉とともに、ノートを机に叩きつけるような勢いで置く。
腕組みをさっとすると、口の端を上げてにたりと微笑む。
「私用事あるからさ。如月さん頭いいから余裕でしょ」
その様子を見て、一花は断れないことを悟った。納得はできなかったが、小さな声でぽつりと承諾した。
「うん……分かった」
「やった!ありがと!じゃあよろしく~」
お礼もそこそこに、クラスメイトはぱっと身を翻すと自分の女子グループに戻っていく。一花は置かれた彼女のノートをぱらぱらと見るが、大したことは書いていなかった。
「そんじゃ、昼休み遊びに行こ!」
「あんた今のひどくな~い?」
別の女子生徒が言葉では心配している風だが、くすくすと笑っている。笑うたびにそのグループ全員でちらちらと一花を見ている
「だって他にあの子すること無さそうじゃない?」
「まあそれは言えてる」
一花は急にやらなくてはならない課題に取り掛かるため仕舞った教科書を改めて机の上に出す。その間も悪口は続いており、一花はいたたまれない気持ちになる。
入学式が終わり、ひと月ほど経った。
一年生の教室付近では様々な小学校から集まった生徒達が同じ小学校からのグループでつるむこともあれば、新しい友人とともに騒ぐ姿もあり、落ち着かない雰囲気だ。
「ねえみてこのリップ、新色買っちゃったぁ!」
「お小遣いピンチって言ってなかった?」
「親と買い物に行ったついでにお願いしちゃった」
「い~な~」
クラスメイトの色っぽい会話を聞きながら、長い黒髪にカチューシャをした大人しそうな女子生徒は本を開いているものの、内容は頭に入ってきていない。
(わぁ、色っぽいなぁ。まだ中一なのに。けどそんなこと思ってるのも私だけだよね……。みんな中学になって途端に大人っぽくなってるし……)
如月一花、中学一年生。
クラスで学級委員を務め、成績は優秀。
口数は少なく、地味で目立たない。
そんな彼女は誰とも話さず一日を終えることも珍しくない。
さきほど賑やかに会話をしていたクラスメイトが、別のクラスメイトに声を掛けている。
「ねー、放課後カラオケいかない?」
「あ、いいね、行く!」
(もう仲良くなったんだ。別々の小学校だったのに)
一花は次の時限の教科書とノートを取り出し、ひっそりとまた空気と同化した。彼女には友達がいなく、気が付けば周りはグループを作っており、誘われることも自分で声を掛ける勇気もなくこれまで過ごしてきた。
(私の友達は本だけ。いつも本を読んで過ごしてた……。
本当に暗い日常だな……)
ぼうっと考え事をしていると、先ほど遊びに行く約束をしていた女子生徒が一花を見て叫んだ。
「ねえ如月さーん!」
「えっ、わ、私?」
突然話し掛けられたことに驚きつつも、ちょっとした期待を抱く。
「六限でやるグループ発表の課題、私の担当のとこ、やっといて!」
「え、でも……分担、決めたよね?」
しどろもどろな一花に、クラスメイトは畳みかけるように続ける。
「ねえお願い!途中まではやったんだけどさ、ハイ」
いつの間にか一花の近くまでやって来ていた彼女は、乱暴な言葉とともに、ノートを机に叩きつけるような勢いで置く。
腕組みをさっとすると、口の端を上げてにたりと微笑む。
「私用事あるからさ。如月さん頭いいから余裕でしょ」
その様子を見て、一花は断れないことを悟った。納得はできなかったが、小さな声でぽつりと承諾した。
「うん……分かった」
「やった!ありがと!じゃあよろしく~」
お礼もそこそこに、クラスメイトはぱっと身を翻すと自分の女子グループに戻っていく。一花は置かれた彼女のノートをぱらぱらと見るが、大したことは書いていなかった。
「そんじゃ、昼休み遊びに行こ!」
「あんた今のひどくな~い?」
別の女子生徒が言葉では心配している風だが、くすくすと笑っている。笑うたびにそのグループ全員でちらちらと一花を見ている
「だって他にあの子すること無さそうじゃない?」
「まあそれは言えてる」
一花は急にやらなくてはならない課題に取り掛かるため仕舞った教科書を改めて机の上に出す。その間も悪口は続いており、一花はいたたまれない気持ちになる。
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