契約結婚なはずの旦那様に気づけばグイグイ迫られてます。
候爵様の秘密の恋人
それを目撃してしまったのは、一月ほど前。
とある伯爵家の夜会だった。

リーシャはカルテット伯爵家に引き取られてからというもの、ひたすら夜会だのガーデンパーティーだのに出席させられている。
最初はある程度淑女教育をしてから、のはずだったのだろうが、父親が望む最低限のマナーだの教養だのはすでに身に着けていた。
父親にしてみればどうせ金のある貴族の愛人か後妻に売りつけるつもりの娘である。
必要以上に金や時間をかけて完璧な淑女にすることもなく、リーシャはあっさりと淑女教育からは開放されたものの、代わりにみすぼらしくない程度のドレスに濃い化粧でポンと社交界に放り出された。

普通なら、社交の場に娘と同席するのは母親であることが多い。もしくは少し大きい夜会なら両親ともにか。

けれど表向きリーシャの母親ということになっている本妻は人前だけでもリーシャを娘扱いするなど御免なのだろう。
リーシャと同席し連れ回すのは常に父親で、本妻は別の夜会やパーティーに参加しているらしかった。
リーシャとしても気持ちは似たようなものなのでそれについて否やはないが。

会場につくと父親はひとしきりリーシャを連れ回し買い手の候補らしい男性たちに挨拶させて時にはダンスの相手をさせる。

それが済めば自分はあちこちに挨拶回りに向かってリーシャのことは放置だ。
ただし勝手に他人と話をしたりダンスに応じたりしないように口酸っぱくいい置いていくのは忘れない。

なのでその後はいつも大人しく壁の花。

周囲の貴族たちはそんなリーシャに好奇と嘲笑と蔑みの視線と時折わざと聞こえるように陰口を落としていく。

その日もそうで、けれど少し違ったのはその日は視線や陰口だけではなく、行動に移すご令嬢がいたことだった。
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