魔法の鍵と隻眼の姫
フフフフ…

ハハハハハ…

「ん…」

倒れていたミレイアを起こしたのは不気味な笑い声。
ゆっくりと体を起こし辺りを見回す。

黒くまとわりつく空気。
時折赤い光が点滅し遠くゴロゴロと唸りを上げる。

フフフフフ・・・・

耳元で笑い声がして咄嗟に振り向くと人型になった黒い霧が何体も蠢いていた。

「だ、誰?」

恐る恐る立ち上がり人型の霧の前に立つ。

ハハハハ・・・

ただ笑い声だけが響きそれだけで恐ろしくなったミレイアはハンカチが巻かれた手首を握りしめる。

「ラミンどこにいるの?怖いわ…」

『ウヒヒヒヒヒ・・・こわい・・・』

また耳元で声がしてばっと振り向くと霧の顔が近付いてきて思わず後ずさる。
しかし後ろにも人型の霧がいて囲まれてしまっていた。

『こわい…』

『だれもたすけてくれない…』

『にくい…』

『どうして自分だけ…』

「え…?」

『なぜ自分だけ目の敵にされて…』

『恐れられ…』

『影口を言われ命を狙われ…』

『嫌われてきたのか…』

「・・・・」

言っていることが自分の事だと気付くとミレイアは閉口し青ざめる。

薄かった霧が段々と一体に集まり濃くなっていく。
口だけが大きく避けて口角を上げて笑っているのがさらに不気味で恐ろしかった。

『憎い…人間が憎い…』

『誰も自分を分かってくれない…』

妬み嫉み憎悪嫉妬悲壮無念空虚罪悪恐怖絶望殺意…

今まで取り込んできた負の感情が一気に押し寄せてくる。

ヒヒヒヒヒヒ…

「い、嫌…やめて…」

耳を塞ぎ聞こえないようにしても頭の中に響いてくる感情と相反する不気味な笑い。
頭がおかしくなりそうで蹲ったミレイアを霧が触れて来ようとしてびりっと何かが弾いて一瞬身を引いた。
それに気づかないミレイアは、はぁはぁと荒い息を上げる。

「何だお前はっ!」

顔を上げたミレイアの前をサッと人影が通り過ぎ人型の霧に襲いかかっていた。
そこには白銀の髪をなびかせた後ろ姿。

「あれっ?なんだこりゃ」

殴りかかったはずなのに空を切る拳。
霧散した霧がまた人型に集まってきた。

「ラミン…」

振り返ったラミンは急いでミレイアに駆け寄る。

「おい、小娘大丈夫か?」

抱き起したミレイアの右目は光は収まっているものの赤黒いままだった。
その目から大粒の涙が零れる。

「あ、おい、泣くなよ、どうした?」

慌てふためいてるラミンにほっとしたミレイアは泣き笑いを浮かべた。

「こ、怖かった…ラミン来てくれて良かった」

「…遅くなって悪かったな。ちょっとヴァルミラに会ってた」

「え?」

キョトンとした顔で首を傾げるミレイアの濡れた頬を掌で拭ってやる。


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