魔法の鍵と隻眼の姫
皆、ヴァルミラの部屋に急いだ。
扉の前で一度振り向き皆の顔を見たモリスデンはゆっくりと扉を開く。
南側に位置する大きな窓は陽の光を取り込み辺りを照らす。

その中央の祭壇に件のヴァルミラは横たわっていた。

「ヴァルミラ様、目覚めておいでですか?」

モリスデンが静かに問うが返事は帰ってこず、傍に近寄り顔を覗き込み手にそっと触れたが首を横に振った。

「目覚めてはおらなんだ」

「そん、な、はずはない…。俺は会ったんだぞ!言葉を交わした!前世を見せられたんだ!」

興奮し叫ぶラミンは血の気が足りずによろけ支えきれなかったキースと倒れ込んだ。
ラミンの叫びに驚いたノニがヴァルミラの陰から飛び出してきた。

「何?なにがあったのさっ?」

何があったのかとくるくると飛び回る。
黒い雲や雷が怖くてこの部屋に逃げ込んだノニはヴァルミラの陰で寝ていたようだ。
ヴァルミラが起きた様子はあったか尋ねたが首を横に振るノニ。

「お前が会ったのは、ヴァルミラ様の魂じゃろう。今は会えなくても魂ならいつかひょっこり出てきてくれるかもしれぬ」

「ミレイア王女を目覚めさせる唯一の望みはヴァルミラ様と言うことは、その手立ては今のところないと言うことか?」

「そうなる…後はミレイア自身の生命力を信じ奇跡を待つしかない」

ラミンが地面に手を付き、地面に降ろされ背中を支えられてるミレイアの横顔をちらりと見ると異変に気付いたノニが肩に止まりミレイアの頬をぺちぺちと叩く。

「ミレイアちゃん!なんで寝てるのさ?起きて!お日様が出てるのさ!」

心配げな顔でミレイアを見るノニは今にも泣きそうだ。

「起きて!起きて!ノニとお話しよ!約束したのさ!起きてくれなきゃ悪戯しちゃうのさ!早く起きてミレイアちゃん!」

いくら耳元で叫んでも一向に起きる気配のないミレイアに何かを悟ったノニは呆然とミレイアを見つめる。
その姿を見ていた全員が言葉も出ずに一様に沈黙した。
自分に憤りを隠せないラミンは床に頭をこすり付け拳を叩きつけた。

「くそ…くそっ!」

ミレイアを命の危険に晒させたのは自分だ。
守るはずが守られて、もしミレイアが目覚めず死んでしまったら自分はのうのうと生きているなんて許せない。

ましてやミレイアの無事を祈ってるはずの国王たちに顔向けなど出来ない。

世界を守ったはずなのに…。

遺恨を残した形となったラミンとミレイアの旅はこうして人知れず終わった。


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