魔法の鍵と隻眼の姫
今日もラミンにコテンパンにやられたトニアスはミレイアに会って疲れを癒そうと部屋を訪れ、ドアを開けるとそこには先客がいた。

「これは、リノン王女」

「まあ、トニアス様、お邪魔してます」

ミレイアのベッドの横でニコリと笑うリノン王女は隣国クルミル王国の王女で兄セイラスの婚約者だ。
光るブロンドにサファイアの瞳が美しい。
心優しいリノン王女は度々ノアローズに訪れセイラスと親交を深めていたがそのときいつもミレイアの部屋に赴き話しかけてくれている。

「あれ?兄上は?」

「国王様に呼ばれ行きました。今は私とミレイア様と女同士の話をしていたのよ」

可愛くウィンクするリノン王女に赤面するトニアスはおずおずと王女とは反対側のミレイアの側に近寄った。
縁談もことごとく断っているトニアスは女性が苦手でミレイア以外どう対応していいかわからない。

「そ、それは、お邪魔してしまったのは僕の方でしたか」

「フフッそんなことありませんよ。ね、ミレイア様。トニアスお兄様がいらっしゃいましたよ」

ミレイアの手を優しく擦り話しかけるリノンはトニアスの一つ年下で自分には兄しかいなかったから妹が欲しかったと、セイラスとの婚約が決まった時、妹が出来ることを一番喜んだちょっと変わった王女様で、皆が恐れる異色の目を持つものと知ってもそれは変わらなかった。

それでも懸念した王とセイラスは会わせてくれなかったが、救世主という大役を果たしたミレイアとお会いしたいと懇願し対面させてもらえたのは3か月ほど前の事。

「私は妹が欲しかったの。目覚めればきっと綺麗な瞳とかわいい声で笑ってお姉さまと呼んでくれるでしょう?それを楽しみにしてるから、必ず目覚めてね。みんなが待ってるから」

女神のように慈しむリノン王女に兄上は良い伴侶に恵まれたと心から思う。

「おや、トニアスもいたのか」

「兄上」

セイラスが戻ってきてリノンの隣に立つとミレイアを見て一瞬悲しそうな目をしてトニアスは首を傾げる。

「リノン、僕たちの結婚の日取りが決まったよ。1ヶ月後だ」

「え?でも…」

驚きセイラスを見上げるリノン王女は再びミレイアを見つめる。
世界が救われる日が来たら結婚しようと誓い合ったが、今はミレイアが目覚めるまではと結婚を先延ばしにしていた。
それは二人で決めたことだったが国としては早くセイラスが結婚して王の後継として王太子の位を受け継いで欲しい。
それにリノンをいつまでも待たせていかず後家になっては困るという親心もある。
ノアローズ国王とクルミル国王の協議の結果だった。

「ミレイア様に一番に祝って欲しかったわ…」

「僕も同じだよ」

俯くリノンの肩にそっと手を置いたセイラスも眉根を寄せる。

「あ、兄上、まだ1ヶ月あるのでしょう?まだ望みはあります!必ずミレイアは目覚めます!」

根拠のない断言をしたトニアスに驚くセイラスとリノン。

「信じて待ちましょう?兄上の結婚はミレイアが一番喜んでいたのだから」

必死なトニアスにふっと笑ったセイラスは頷く。

「そうだな、トニアスの言う通りまだ1ヶ月ある。それまでに目覚めてくれたら嬉しい。ミレイア、待っているよ…」

ミレイアの手をリノンの手ごとぎゅっと握ったセイラスはミレイアを愛おしげに見つめた。
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