魔法の鍵と隻眼の姫
「じゃあな、アマンダ、元気で」

「え?」

サッと店を出て行くラミンの後ろ姿を唖然と見ていたアマンダ。
トニアスはまた置いてきぼりにされそうで慌てて後を追う。
アマンダの名は踊りを見ていた者なら誰でも知っているだろう。でも、まるで親しみのこもったその言い方になぜか既視感が過ぎった。

「ちょっと待って!」

店を飛び出したアマンダがラミン達の後ろ姿を見つけ追いかけた。
立ち止まり振り向いたラミンにアマンダが揺れる瞳を向ける。

「ねえ、あなた前に私と会ったことない?」

その問いに覚えているのかと一瞬驚いたラミンは、どうにか思いだそうとするも思い出せない不思議そうな表情をするアマンダを見てフッと笑った。

「いいや、会ったことはないな」

「…そう。…また、会えるかしら?」

「さあ、どうだろう。分からないな」

「そ、そうね。分からないわよね…」

「じゃあな」

切なそうな顔をするアマンダを残し踵を返したラミン。
そんなアマンダとラミンを交互に見ていたトニアスが後ろを気にしながらコソッと言った。

「ラミン、ホントにあの人と会ったことないの?」

「無いな。…ああ、昔、似たような奴と旅したことはあったかな…」

「え?何それ?」

そういえばアマンダの名を何処かで聞いたような…?
そう思ってその後いくらトニアスが聞いてもラミンは答えてくれなかった。

ふてくされるトニアスを横目に見上げれば満天の星空と大きな三日月が見える中、夜道をプラプラと歩いていく。

ラミンはアマンダとの出会いを思い出していた。
「あなた珍しい髪色ね。綺麗だわ」
初めて会った時もこの珍しい白銀の髪に興味を持ったアマンダから声を掛けてきた。
まだ若くあどけなさが残る笑顔。
それから深い仲になるのに時間はかからなかった………。

目を伏せ笑みを浮かべる。
何もかも忘れているアマンダに再び関わろうとは思わない。
もう違う道を進むと決めたのだから。
それでも偶然にも見かけ、言葉を交わす事が出来て元気そうなアマンダに嬉しさが込み上げる。

どうか幸せに…。

今は愛情でも欲情でもなく、言うなれば親愛がラミンの心を温かくした。
< 191 / 218 >

この作品をシェア

pagetop