魔法の鍵と隻眼の姫
「お産まれになりました!珠のように可愛らしい王女さまです!」

侍女が叫ぶと王宮内はさざ波のように情報が流れ、城の東側にある神殿から王女誕生の祝いの鐘が鳴った。

ノアローズ王国。
ここは世界一大きな国で最初に出来た王国。

乳を含みすやすやと寝ている我が子を愛しげに抱く王妃は知らせを聞いて飛んできた王と兄となる王子二人に微笑みを向ける。

「サリヤ良くやった」

「アルトバル、女の子です」

アルトバル国王は眠る娘を抱き上げ満足げに見下ろした。
自分に似た細く輝く黒い髪、白い肌にほんのり赤く色付く頬。
目が開けばきっと綺麗な紫色の瞳が自分の姿を写すだろう。
先に産まれた息子二人は母のサリヤに似て、栗色の髪にアイスブルーの瞳。
自分に似た子が欲しいと密かに思っていた。

「父様!父様!僕にも抱かせて!」

「ぼくもぼくもぉ~」

7才になる長男セイラスと3才になるトニアスが父王にすがってねだる。

「おお、そうだな。セイラス落とすでないぞ!大事な妹姫だ。次はトニアスだからな」

「うん!」

二人の元気な返事を聞き、王はひざまずきセイラスに姫を抱かせる。
恐る恐る抱いたセイラスは眠る姫をまじまじと見た。

「女の子可愛いね。僕優しくして上げる!守ってあげるからね」

まだ7才ながらも小さな妹を守ろうとする息子に王と王妃は目を合わせ微笑み合う。

「ぼくも!まもってあげるの!だいすきっていってあげるの!」

兄ばかり抱っこさせてもらってるのに我慢できなくて弟のトニアスは兄の手を引っ張り自分に姫の顔が見えるようにした。
不意に引っ張られて姫を落としそうになりセイラスと王は慌てた。

「わっ!」

「こら、トニアス!引っ張ってはならん!」

お構いなしに姫の顔を向けさせたトニアスは姫の頬にキスをした。
咄嗟に王が手を伸ばし支え、落とすことを免れホッとした王とセイラス。
ベッドの上の王妃も胸を撫で下ろす。

「トニアス、危ないじゃないか~」

「あ、めがあくよ!」

セイラスが頬を膨らませ怒っていても姫に夢中のトニアスは目が開きそうでワクワクしていた。
王も期待の目で見守った。

さあ姫よ、その綺麗な瞳を見せておくれ…。

皆が見守る中、ゆっくりと開いた瞳の色は…

「ひっ…」

「な、なんてことだ…」

「わあ、きれいなめしてるよ!」

「ほんとだ!左右で目の色が違うよ!とってもきれい」

絶句する王と王妃を余所に王子達は姫の瞳を見てはしゃぐ。

左目は透き通るように輝くアメジスト色

右目は…血を思わせる赤い瞳の中に金色が星のように角度によって現れる、まるでスタールビーのようだった。

王子達は綺麗だと喜んでいるが王妃は目を伏せ震え、王は呆然とする。
そして王は思い出した。
王家に伝わる伝承を……。


王家に異色の瞳を持つもの生まれる時

空に悪しき魂渦巻き

世界を滅ぼすだろう


「なんてことだ……。ただの言い伝えだと思っていたが、まさか、本当に…」

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