魔法の鍵と隻眼の姫
苦虫を噛み潰したように歯をぎりっと鳴らしミレイアの顔を見下ろす。

「ノニ、こいつの苦しみを癒す魔法とか薬とか無いのか?」

一縷の望みを賭けてノニに聞いたが、ちらっとミレイアの髪から顔だけ覗かせて困ったような顔で首を振る。
思わずチッと舌打ちするとノニは青い顔をしてまた髪の中に潜っていった。
その様子を見てうっとばつが悪くなり溜めてた息を大きく吐いた。

「はあ、悪いノニ。そんなのあったらとっくに使ってるよな…」

ノニは潜ったまま反応しない。
悪い事をしたと思いながらも苛立ちが先に立ってしまう。

くそっ俺がヘマしなければ…。
まだ上半身裸のままだった自分の胸を見下ろして、あったはずの傷の場所を触る。
ミレイアが自分の傷を癒し代わりに苦しんでると思うと堪らない。
後悔が押し寄せやるせない思いが胸を抉る。
しかし自分は癒す薬も魔法も何も持っていないただの人間。
何もできない自分を歯痒く思いながら、今はなんとか少しでも楽になるように汗を拭ってやり額にタオルを置いて冷やしてやった。
そうして空が明るくなり陽が上る頃、ミレイアの呻きは消え熱も引き穏やか表情になってきたことを確認しホッとしたラミン。
ん…、と身じろきするミレイアを固唾を飲んで見守った。


意識が覚醒し、ゆっくりと瞼を開けるとぼんやりと人影が自分を覆うように見えてギョッとして目をぱちくりさせた。

「おい、大丈夫か?」

心配そうに顔を除き込むラミンと目が合い元気そうに見える姿にミレイアは安堵した。
けど、「ああ…おはようラミン」とのんびりと言うもんだからガックリと肩を落とすラミンにどうしたのかと首を傾げる。

「……お前、熱は引いたようだが体は?大丈夫なのか?」

「え?あ、うん。大丈夫だけど…どうかした?」

気を取り直したラミンが心配そうに聞くけどミレイアは誤魔化したいのが見え見えで聞いてくる。
それにはイラッときたラミンは起き上がったミレイアの肩を掴んで凄んだ。

「どうかした?じゃねえんだよ!熱出して呻いてた癖に!お前俺になんかしたんだろ?昨日の傷が無くなってる!」

「…流石、私特性の軟膏のお陰ね…」

「誤魔化すな!」

間近で凄まれてたじろくミレイア。
それでもとぼけようとするからとうとう押さえていた憤りをラミンは爆発させ怒鳴った。
ビクッと目を瞑り恐る恐る目を開けると真っ直ぐに見据えるラミンの目があって逸らせなくなる。

「お前!俺の傷を癒したせいで熱出して苦しんでたんだろう!?それもそうなるとわかってて!」
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