魔法の鍵と隻眼の姫
「お前、もうその能力使うなよ?例え俺が死にそうな事になってもな。約束しろ」

「な、そんな約束できないわ!私は私の判断でこの能力を使うの!あなたに指図される筋合い無いのよ!」

ミレイアが思わず握り拳を作ってノニを潰しかねないところをヒラリと飛び上がり二人を心配そうに見ながら飛び回る。

「筋合いどうこうなんて関係ねえ、俺が嫌なんだ。お前の苦しむ姿は見たくねえ…」

「!……」

眉根を寄せて苦悶の表情をするラミンにいきがったミレイアも大人しくなった。
自分の体を気にしてくれているのが少なからず嬉しくも不思議に思いラミンを見つめる。

お兄様達は便利だねと喜んでくれたのに…。

まあ、兄達には小さな擦り傷とかしか癒したことがないからミレイアもそれほど苦しむこと無かったのだが。

「とにかくだ、俺の許可無く力は使うな、わかったな?」

「……」

話は終わりだと言わんばかりに立ち上がったラミンは馬の方に足を向ける。
いつまでもこの森に居続けるのは危険だ。
ノニの結界のお陰であれ以来魔物は出てきてないが早く森を抜けるに越したことはない。

馬の手綱を解いているラミンの後ろ姿を見てミレイアはため息をつく。

なんて横暴な…。

王女たるミレイアに命令するラミンに不満を持ちながらも自分を気遣っての事なのでミレイアはそれ以上反論できないでいた。
それに嫌な気はしない。
散々お前や小娘呼ばわりされて名前もろくに呼んでくれないのに、だ。
心配してくれる顔が、優しく眺める瞳が憤る自分の心を溶かしてくれる。
そんな初めての感覚に戸惑いもある。

が、今はそれよりも、夜が明けた。
早くここから立ち去った方がいいのはミレイアもわかっている。
顔を洗い身支度を整えると馬の用意をして待ってたラミンの元へ行く。
自分の馬に跨がろうと寄っていくとむんずと肩を掴まれ振り返った瞬間無言のラミンの肩に担がれた。

「え?何?ちょっと!」

驚いてされるがまま、ラミンの馬ウォルナーに乗せられる。
その後ろにひょいっとラミンが乗り二人乗りの完成だ。

「って、ラミン何してるの?私一人で乗れるわよ?」

「いいから乗ってろ。俺に背を預けて少しでも休め」

降りようとするミレイアの腰を抱き寄せぎゅっと後ろから抱き締められる形となり固まる。
言い方は横暴なのに背中から伝わる熱は温かくて緊張が解れた。
本当はあんな大きな傷を吸い取ったことが無くてかなり体力を消耗していた。
それを知ってか知らずかラミンはまだ本調子じゃないミレイアを見抜き少しでも休ませようと自分の馬にのせたのだ。

「あ、ありがと」

小さな声でお礼を言うミレイアにフンと鼻で返してラミンは馬を小走りに走らせた。
ウォルナーに繋がれたフィーダも一緒に走り出す。
その鞍の上にはのんびりと寝そべるノニがいた。
それを見てふっと笑ったミレイアはラミンに背中を預けた。
父王や兄達とまた違った大きな胸が温かくて落ちないように時折抱き寄せられる腕に安心するのだった。
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