偽物の恋をきみにあげる【完】
それからしばらくの間、大雅は何も言葉を発さずに、ぼんやりと目の前の海を眺めていた。

大雅は今、何を考えているのだろう。

その横顔からは何も読み取ることができなくて、私はとても寂しくなる。

いつだってそうだ。

大雅のことなんて、何もわからない。

私のことを傍に置きたがるのに、まるで好きみたいな態度を取るくせに、私を好きという言葉は絶対にくれない。

恋愛ゴッコしかしてくれない。

偽物の恋しかくれない。

それでもいいからずっと一緒にいたいと願っても、たぶんそれは受け入れてもらえないのだ。

『半年だけ』

『春は一緒に行けないし』

『好きになってくれてありがとう』

私達の関係の終わりは、きっともう目の前に迫っている。


──ねえ、大雅。

アンタは私と、何がしたかったの?


人気のない静かな浜辺に、ザザーと寄せては返す波の音が小さく響く。

ねずみ色をした冷たそうなだけの海を、大雅はただ真っ直ぐ見つめている。

『これまでの人生振り返ろうかな』

『俺の初恋の相手、実は瑠奈』

そんな昔のことなんて、どうだっていいのに。

今、アンタの隣に私はいるのに。

この先もそうでありたいのに。

「……ねえ、瑠奈」

大雅が、目の前の海をじっと見つめたまま、不意に口を開いた。

「大事な話があるんだけど」
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