偽物の恋をきみにあげる【完】
最初から最後まで、大河は本当に大嘘つきだ。

私のこと好きなくせに好きじゃないフリしてたし、コタローくんのことも病気のことも全部内緒にしてたし、恋人ゴッコって言ったくせに結局「愛してる」なんて言うし。

黙っていなくなるし、「ベビーに会わなきゃ死んでも死にきれない」とか言ったくせに、生まれる前に天国行っちゃうし。

挙句の果てに、こんな偽物のハッピーエンドな物語を、こっそり書いて送り付けてきた。

家族揃ってカレーだなんて、本当に嘘ばっか。

鼻の付け根がつんとして、慌てて俯く。

布製の赤い表紙の上にぽたっと水分が落ちて、じわりと染み込んだ。

もう泣かないと決めたのに、涙腺が弱くて困る。

そもそも、なんで私が主人公なの。

大河はとうとう最後まで、私に真実を教えてくれない。

彼が抱えていたであろう病気の苦しさや死への恐怖を、きっと1ミリも書きたくなかったのだと思う。

嘘ばかりで、大事なことはすぐはぐらかして、本当のことなんて全然教えてくれない。

全部1人で抱えて。

私はいつも、大河に騙されてばかりだ。

大嘘つき。

でも、いちばんの嘘は。

私はずっしりと重いお腹を抱えて、ソファーから立ち上がった。

確か、この辺に閉まってあったはず。

テレビボードの引き出しをゴソゴソと漁り、油性のマジックペンを取り出した。
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