偽物の恋をきみにあげる【完】
バスルームを出た私は、冷蔵庫から缶ビールを取り出して、その場でごくごくと飲んだ。

熱いシャワーで少し逆上せ気味になった身体に、キンキンに冷えたビールが痛いくらいに染みていく。

風呂上がりのビールだなんて、いつの間にこんなことが日課になってしまったのだろう。

缶ビールを片手に部屋に戻る。

八畳の部屋のど真ん中に置かれたローテーブルの前、白いラグの上にどっかりと腰を下ろした。

体がまだ火照っているから、長いラグの毛が少し鬱陶しい。

ビールをひと口飲んで、電源が入りっぱなしのノートパソコンを開いた。

私はネット小説を書いていて、寝る前のこの時間は大抵クリエイターの活動で費やすのだ。

ロック解除のパスワードを打ち込む。

『taiga0723』

パソコンだけじゃない、私のネット上のあらゆるパスワードは、大雅に再会する前からずっとコレ。

銀行やらスマホのロックやらの暗証番号は『0723』だ。

パスワードが初恋の人の名前や誕生日だなんて、いい年こいてバカみたい。

再会してからは尚更思う。

本当にバカみたい。
< 4 / 216 >

この作品をシェア

pagetop