あの日勇気がなかった私たちは~卒業の日~
「まだまだ寒いね」

会話が見つからず、当たり障りのないことをいってしまう。まだ二月なのだから寒いに決まっているのに。

「そうだな。はやく暖かくなればいいんだけれど」

それでもちゃんと返事を返してくれる。それがすごく嬉しい。


帰り道といっても駅までの距離はあっという間で。
すぐに駅に着いてしまう。

15分もしないうちにだんだん駅がみえてきた。

さりげなく右にいる一ノ瀬くんをみてみる。
160センチあるかないかほどの私に対して、175センチほどある一ノ瀬くん。
運動部だったこともあって筋肉があるけれど、だからといってすごくがっしりしている訳でもない。ちょうどいい感じの筋肉の付き方で、スタイルもいい。

改めてみるとやっぱりかっこいいなと思うし、好きだと感じる。
一度好きだと認めるとふとした拍子に好きだなという気持ちがあふれる。
初めての経験だからとてもくすぐったい。


「わざわざ送ってくれてありがとう」

「いや、全然構わないよ」

「それじゃあまた明日、テスト頑張ろうね」

「おう。また明日」


改札口を通って角を曲がる寸前、後ろを振り返ってみる。
前のように一ノ瀬くんがこちらを見ていることはなかった。だけどなんとなく一ノ瀬くんの姿が見えなくなるまでずっと見送ってしまった。

そのせいで電車が一本出てしまったなんて、私は知らなかった。
< 72 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop