あの日勇気がなかった私たちは~卒業の日~
最後の放課後
莉子と愛、三人で盛り上がった放課後から二日。
今日で放課後に残って勉強できるにはおしまいだ。
明日からテストが始まる。


「じゃあ先に帰るね、澪」

「うん、またね、愛」

愛だけでなくほかの生徒も続々と帰って行く。
最終的に残ったのも私と一ノ瀬くんだけ。最後の最後までいつも通りで笑みがこぼれてしまう。


「最後まで俺たち二人だけだな」

いつも通りの六時半、一ノ瀬くんが話しかけてきた。

「そうだね」


そこからとりとめもないことばかりを話した。
テストのこと、これからのこと、昨日やっていたバラエティ番組のこと・・・
この何気ない日々が、受験期の私にとって一番の気分転換のなった。
これからこんな日々はないと思うと悲しくなる。


「もう時間だな。帰ろうか」

「そうだね」

七時、いつものように帰り支度をする。それも今日で見納め。
二人っきりで真っ暗な校舎を並んで歩くことはもうないんだ。


「駅まで送る」

「え、反対方向だし悪いよ。一人で大丈夫だよ」

こんなとき素直に甘えて一緒に帰れたらいいのに。それもできない自分に嫌気がさす。


「いや、暗いし送る」

いつもならそこで引き下がるはずなのに、今日の一ノ瀬くんはひかなかった。
何が何でも送りたいみたい。

「じゃあ、お言葉に甘えて」


前に一度送ってもらって以来、こうやって駅まで二人で歩くのは初めてだ。
だから駅まで送ってもらうのもこれが二回目。
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