溺れろ、乱れろ、そして欲しがれ
今夜もまた習慣である慶太のバーへ

たまには寄らずに帰ろうか

帰ったら帰ったで、どうしたのか心配するだろうけど。

少し過保護でもあるな。

分厚いドアを押し開けると、薄暗い店内に慶太の嬉しそうな声が響く

「希!こっちにおいで」

カウンターの一番奥の席。

「うん。」

「今夜は早かったね。お疲れ様」

「急ぎの仕事もなかったからね。でも、年の瀬はやっぱり疲れるわー。」

「年の瀬って」

ケタケタと目を細めて笑う慶太

「バーも忙しいでしょう?忘年会始まると二次会で使われること多いし」

「うーん。そうだね。稼ぎ時ではあるかな。マスターにコキ使われる」

「容赦なさげだもんねー、マスターは」

二人だけの店内に、二人分の笑い声。

誰もいないこの時間が唯一、店員と客の垣根がない。

他にお客さんが入れば、私も一客になる。


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