溺れろ、乱れろ、そして欲しがれ
さっきまでの私と今の私

何が同じで何が違う?

不覚にもおちてしまったんだろうか

いや、絶対にない。

それだけは認めたくない。



うつろに景色を眺めすぎた。

賑わいをみせる温泉街に観光客がわんさかと目に入る。

適当な駐車場に停めて、気ままに散策することにした。

なんの計画もない。

ただ赴くままに歩き出す。

「混んでるからな。はい」

左手を出されて、その手と顔を交互に見た

「早く出せ。行き場がなくなるとこの左手はむなしく落ちるだろ」

「断ったらダメですか?」

「それ相応の詫びをくれるならいいけど?」

「温泉卵とか?」

「お前、バカにしてるだろ」

「ナイスな返しだと思ったんですが」

「問答無用だ」

ぎゅっと握られた手が思いの外優しくて、やっぱり断固拒否れば良かったと、大いに後悔した。


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