フェイク×ラバー
「わかんないだろうけどな、築き上げたイメージを崩すのには、それなりの覚悟と決意が必要なんだよ。簡単に言うな」
「イメージ、ね」
鷹臣が理解できん、といった顔をすれば、はじめは無愛想な声音で告げる。
「お前にはわかんないだろうな」
鷹臣本人には口が裂けても言わないが、はじめは鷹臣の性格を羨ましく思っている。言いたいことを率直に言えて、自分を偽らない。
営業部に所属する人間がそれで良いのか? と思わなくもないが、そんな鷹臣が羨ましくて、ちょっと憧れているのも事実だ。
──絶対本人には言わないが。
「……簡単じゃないんだよ」
はじめは会長の孫で、社長の甥なのだ。言動に気をつけて、仕事だって人並み以上に努力しなければ、コネ入社だとか、七光だとか陰で言われかねない。
何より、自分の行いのせいで祖父や叔父に迷惑をかけてしまうことだけは避けたい。
そんな考えに縛られた結果、今の王子呼びが誕生してしまったのだ。
今更、何をどうすればこの定着してしまったイメージを崩せるのだろうか?
しかも、良い方向に。
「俺は今のお前の方が好きだけどな。会社でのお前は、気持ち悪い」
「気持ち悪いは言い過ぎだろ」
相変わらず、率直な男だ。
だからこそ、自分も本音をさらけ出すことができる。
実は正直なところ、出会った当所、はじめは鷹臣を苦手に思っていた。
この男は会って数秒で、見抜いたのだ。二十九年間、誰にも見破られたことのなかった、はじめの完璧な作り笑いを。
──すげぇ嘘っぽいな、その顔。疲れねぇの?
雷に打たれたような衝撃を、今でもよく覚えている。
この男とは一生分かり合えないし、親しくすることもないだろう。
そう思っていたのに、人生とはよくわからないものだ。当たり障りなく接してきた学生時代の友人や同僚よりも、この無神経に本音を隠すことなくズバズバ言う男といる方が楽だなんて。
「そういや、見つかったのか?」
「何が?」
「同伴者。探してたろ?」
「ああ、そのことか」
馴染みの牛丼チェーン店に向かいながら、はじめが眉をひそめる。
「で? 見つかったのか?」
「…………まだ見つかってない」
「だろうな。どうせ誰にも聞いちゃいないんだろ?」
見透かしたような鷹臣の言葉に反論したくなったが、事実なのでしょうがない。
「どうすんだ? 兄貴の結婚、もうすぐだろ?」
この男はやはり、無神経だ。
考えたくないと思っていることを、遠慮なしに聞いて思い出させる。
けどはじめ自身、わかってる。
そろそろ真面目に、“問題”と向きわなきゃいけないということを。
「別に一人でもいいんだろ? なら無理して同伴者探す必要もないんじゃねぇの?」
「……兄さんたちが余計な気を回すから、一人は避けたいんだよ」
「余計な気って?」
店に到着し、二人は手早く注文を済ませ、いつもの席を陣取る。
「…………俺に紹介したい子がいるんだと」
来月、二歳年上の兄が結婚する。
それはめでたいことでいいのだが、問題が一つ、浮上してしまった。
兄が、「次ははじめの番だな。今付き合ってる子いないんだろ? 実は紹介したい子が何人かいるんだ」、なんて言うのだ。
兄の余計な気遣いは間違いなく善意。
だからこそたちが悪い。
更にたちが悪いのは、それに両親と兄嫁も賛同したこと。逃げ道をふさがれてしまったはじめの口から咄嗟に出た言葉は、
──付き合ってる子がいる
だった。
「口は災いの元、ってマジなんだな」
「うるさい」
「けどホントにそうだろ? おかげでお前は、彼女を探さなきゃいけない羽目になった。来月の兄貴の結婚式までに」