次期家元は無垢な許嫁が愛しくてたまらない
 先ほど智也が、伊蕗の祖父も来ていると言っていたのを思い出した。

「うん。着替えてくるね。では、失礼します」

 茉莉花は伊蕗に頭を下げ、左の廊下を進み、自分の部屋へ向かった。

 ドアを開けて、壁際に置かれたベッドにポスンとダイブする。そしてうつ伏せで顔を枕に押しつけ、「きゃーっ!」と足をバタバタさせる。

(都会の人って、みんなあんなにカッコいいのかな? ますます東京へ行きたくなっちゃった)

 すでに進学が決まっている女子大は金沢にある。ここから電車で一時間ほどのところだ。

 東京の女子大へ進学を希望していた茉莉花だが、家族全員に反対され、しぶしぶ諦めた経緯がある。それでも東京への憧れは諦めきれない。

(就職は絶対に東京へ行くんだから)

 母親の『手伝って』の言葉を思い出し、ベッドから離れてクローゼットを開ける。急いで目当ての服を手にして、制服を脱いだ。

 ベージュのハイネックのニットと、茶色と黄色の大きな格子柄のスカートを身につけて、ドレッサーを覗(のぞ)き込む。

 この古民家に似合わない、白のヨーロピアン風のドレッサーだ。ベッドも茉莉花の希望で、白を基調としたものが置かれている。
 
高校の校則が厳しくて、茉莉花の髪は染めることなく艶やかな黒色をしている。肩より少し長い黒髪はまっすぐ垂らされており、前髪は眉のラインで揃えられていた。誰が見ても良家の子女といった雰囲気だ。

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