トリップしたら国王の軍師に任命されました。

 陣が完成する前に、前線どうしが衝突した。途端に敵味方入り乱れる激しい戦いが繰り広げられる。動揺していたシステイン軍は、たちまち押され気味に。

「陣形を崩すな! すぐに伏兵と別動隊が追い付く!」

 ジェイルの朗々たる声が響くと、兵士たちの面構えが変わった。彼自身も剣を持って、混乱の中へ飛び込んでいく。

「陛下!」

 バックスとアーマンドは彼を守るように追いかけ、剣を振るう。

「ジェイル、ダメよ! 王は動かざること山の如しなのよー!」

 武田信玄は軍の最後尾で、混乱に動じることなく座っていたという。しかし今のジェイルは、侵略すること火の如し、である。

 明日香は兵士たちに守られ、最後尾から動けずにいた。じっと戦いの成り行きを見守っていると、一際目立っている敵を見つけた。

 豪華な馬具を着けた馬に乗っている男。他の兵士が彼を守ろうと囲んでいる。

「あれが、カルボキシルの王……」

 呟いた声が聞こえたかのように、馬上の彼と目が合った。と同時に、老王は明日香の方へと馬首を向ける。

「いけない」

 見つかった。明日香は悟った。誰より彼に憎まれているのは、軍師である自分であったと。

「軍師、覚悟!」

 老王は馬を走らせ、システインの兵を蹴り飛ばして明日香に向かってくる。
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