思いは海の底に沈む【完】
柊さんは俺を抱き抱えると歩き出す



『歩けるのに』

「いいえ、あんなに踵から血が出てるのに歩けるはずはありません」

『この体勢恥ずかしいよ』

「いいじゃないですか。女の子の役に徹せられて」

『…うん』



柊さんの肩に手を回して胸に顔を埋める




柊さんはタクシーを呼んで乗った






「はぁ…。湊、もう顔を見られる事はありませんよ」

『ふふふっまーだ。こうしてると暖かいんだもん』

「はぁ…」






柊さんは二度ため息をついた










緑川さんの家前でタクシーが止まる



柊さんは家の前で下ろした





『ごめんね。洋服はクリーニングに出して返すよ』

「差し上げますよ。今日付き合ってくれたお礼に」

『そう、ありがとう』


インターホンを鳴らそうとしたら緑川さんがタイミングよくやって来た



「湊!?どうしたの?」

『靴擦れが酷くて」

「あら、本当。あ、柊いたのね?」




緑川さんは柊さんから俺を素早くぶん取った



「こんなところで湊に油なんて売ってないで早く飼い主の元に帰れば~?」

「い、言われなくてもそうします」

『柊さん、またね』





家の中に入ると足の手当てをしてくれた



『ごめんね。ヒールの高い靴で踊ったらこうなるって知らなくて』

「大丈夫、心配要らないわ。明日柊の足の爪一本もいどくから」

『…そ、そんなことしなくてもいいよ…。』







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